episode26



暫くして、不動の意識が戻った。

「不動!」

「…何でここにいるんだよ……」

「お前が急に倒れたから心配したんだぞ」

意識が戻った嬉しさで、俺は思わずガバッと不動 に抱きついた。風丸や豪炎寺の前だったが今はそ んな事気にならない。

「死んじゃうかと思った」

「馬鹿、俺はそんな簡単にくたばったりしねぇよ」

ぎゅっと抱き締め返してくれて、俺は幸せな気持 ちで一杯だったが豪炎寺が咳払いしたことでハッ とした。 そうだ、こんな事してる場合じゃないんだった。

「あのさ…不動」

「なんだよ」

「最近誰かと喧嘩したりしてないか?」

俺がそういうと表情が変わった。動揺しているの がすぐ分かる。

「…してねぇよ」

それでも知られたくないのか否定する不動。 すると豪炎寺が口を開いた。

「単刀直入に言おう。さっきお前の具合をみてる 時に痣があったのを見つけた」

「勝手に見てんじゃねぇよ」

罰が悪そうに不動は視線を逸らす。豪炎寺はそれ に構わず続けた。

「誰にやられたんだ」

「さぁ…」

「いいか、これはお前だけの問題じゃない。あく まで俺たちは日本代表なんだ」

「それ、今関係あるか?」

「当然だ。加害者はこのチーム内にいるからな」

「「えっ!?」」

俺と風丸の声が同時にハモった。

「何でそんな事分かるんだよ」

信じられないし信じたくない。今まで一緒に頑張 ってきた仲間の誰かが不動にそんな事するなんて …

「外部の人間なら不動がここまでやられても尚、 何もしないで耐えると思うか?チーム内にいるか らこそソイツを庇っているんだろう」

妙に説得力のある豪炎寺の言葉に俺たちは何も言 えなかった。 確かにそうだ。外部の奴なら不動がやられっぱな しのはずがないし、何より決勝戦を控えた今、俺 たちは外部の人間との接触なんてない。

じゃあ一体誰が…?

暫く沈黙が続いたが、不動がそれを破った。

「参考までに聞くけど、俺が犯人の名前を出せば ソイツはどうなるんだ?」

「犯人がやったと認めるか、はっきりした証拠が 見付かればソイツは出場停止で代表も落とされる だろう。まぁ当然の処罰じゃないか」

「なら言わねぇよ」

「何故だ」

「俺は契約の元でやってんだ。だから俺が名前を 出したら契約違反になるって訳」

「契約?」

「そうだよ。俺はソイツに頼みがあったから契約 を結んだ、それだけだ」

「それだけって…そんな契約おかしいだろ?どん な頼みにしろ暴力なんて…」

流石に黙っていられなくて俺も口を挟んでしまっ た。それでも不動は一向に言おうとしない。 すると豪炎寺は溜め息を吐いて、それなら、と呟 いた。

「お前がそこまで口を割らないなら仕方ない。も うすぐ監督が来るから事情を説明してお前を病院 に連れて行ってもらう。そうなればお前は決勝戦 に出られないし、大事になればチーム事態が出場 停止になるかもしれない」

「そんなの冗談じゃねぇ!決勝戦は明日たぞ!?」

「そうだ。だからお前だけの問題じゃないと言っ たんだ。お前が犯人の名前さえ言えばチームを巻 き込まずに済む」

「それだと佐久間は鬼道に――――」

そこまで言って不動はハッとしたように慌てて口 をつぐんだ。

鬼道…

不動は今、確かに鬼道さんの名前を出した。それ は俺の聞き間違えでも何でもなく、ここにいる4 人が同時に凍りついたような空気になったのが不 動の言葉の現実性を露にしていた。

「おい、まさか鬼道が犯人だとか言わないだろ?」

上ずった声。風丸も明らかに動揺している。 無理もないだろう。 そして不動が何も言わないのはそれが事実である から…

「嘘だろ…」

あの豪炎寺ですら言葉が出ないようだ。 不動はしょうがねぇなと溜め息を吐いてから、口 を開いた。

「で、どうするんだよ。鬼道が犯人でも処罰を受 けさせるのか?」

「それはっ――」

「無理だろ?」

「!!…」

「このチームに鬼道は必要な存在なのはアルゼン チン戦で負けたお前らが身を持って知ってるはず だ」

確かにあの日、キャプテンの円堂がいなかったの も敗因の一つだったが、やはりフィールドの中心 で皆をまとめていた鬼道さんがいなかったのはあ まりにも厳しかった。それはあの日、あの試合を テレビ画面で観ていた俺にだって分かる。

そして次戦う相手は今まで以上の強敵。 今鬼道さんが抜けたらどうなるかなんて容易に想 像がつく。

アルゼンチン戦を終え、一部の選手に頼ってはい けないと反省したイナズマジャパンではあったが やはりそう簡単に直るものでもない。

不動はそれを分かっていた。勿論その契約があっ たのもあるが、チームの事も考えた上で鬼道さん を庇っていたんだ…。

「分かっただろ?今こんな事で鬼道を外せばそれ こそこれまでの努力が水の泡だ」

「でもそれじゃ不動が…」

「俺はここまできて負けたくねぇんだ。今一番の 最善策として鬼道のことは黙っておくべきじゃね ぇのか?」

「………分かった。不動がそこまで言うなら鬼道 さんのことは黙っておこう」

俺の言葉に風丸と豪炎寺は驚いたようで、ぎょっ とした顔で俺を見た。

「いいのか?佐久間は」

「俺は不動の意志を尊重したい。風丸も豪炎寺も 頼む!」

俺が頭を下げると、ポンと誰かの手が置かれた。 顔を上げると風丸がそのまま優しく撫でてくれた 。

「分かった。なら俺も不動の意志を尊重するよ」

「ありがとう風丸!」

「俺たち親友だろ?豪炎寺もそうするよな?」

「ああ」

「前ら……ありがとな」

「礼なんか言うなよ、不動らしくない」

「うるせっ」

風丸がからかうように笑うと、素直じゃない不動 は無愛想にそっぽを向く。 そんなやり取りをしては下らないと4人で馬鹿みたいに笑った。

少し経った後、ドアのノック音が聞こえ、監督が 入ってきた。

「不動が倒れたと連絡があったのだが」

「俺は大したことねぇよ」

「いや、取りあえず病院で診てもらった方が良い だろう」

監督はそう言って不動が病院に行くように促した 。

でも今病院に行ったら――

「待っ……」

なんて言えば良いのか分からず、言葉を詰まらせ ていると、風丸が

「でもすぐ意識戻ったし見ての通り元気なんで大 丈夫ですよ。あ、ちょっと必殺技を見て欲しいの でグラウンドに来てもらってもよろしいですか? 」

そう言って監督を連れて行った。 監督は風丸のことを信用しているから納得したよ うで部屋を出た。

「豪炎寺も行くぞ」

「…おう」

豪炎寺の腕を引っ張りながら風丸は俺に目配せし た。

ありがとう…

風丸には助けられてばっかりだ。 チームに馴染めない俺に声を掛けてくれたのも、 悩んでいるときに相談に乗ってくれたのも風丸だ った。

さっきだって監督を納得させられなかったらこの 件を秘密にすることも出来なかったし、 そして今、俺に不動と二人きりで向き合う時間を くれた。風丸はその為に席を外してくれたのか。

風丸、お前は最高の親友だよ
これが本当の親友同士っていう関係だったんだ。
そんな事を俺は今更ながらに気づいた。