episode25
長かったFFIも後2日で幕を閉じる。
イナズマジャパンのメンバーは最後の戦いに向け、最終調整を行っていた。
誰もが絶好調の中で、ただ一人、不調の者がいる…
決勝戦だろうとなんだろうと不動が鬼道と交わした契約は続く。
そのせいで不動の体はもう限界だった。
毎日のように暴力を振るわれ続けて、まともな健康状態でいられるはずがない。後2日…。2日耐えればすべてが終わる。不動は自分の体がもつことを祈りながら少ない日々を過ごすことにした。
―――――
明日はとうとう決勝戦。そう考えると長いような気もしたがやっぱり短かった。もう少し此所ライオコット島にいたいという気持ちはある。
取りあえず悔いを残さないように練習しなくちゃな。
思いはみんな同じのようで、誰もが朝早くから練習を始めていた。
俺は不動と風丸と豪炎寺の三人と練習していた。
変わった組み合わせだとは思ったが、意外に楽しいものだ。
「不動!」
ドリブルしてから不動にパスを送ったが、不動は柄にもなくボールを取り損ねた。
「悪ぃ…」
「どうした不動。らしくないじゃないか」
風丸と豪炎寺も心配そうに不動を見た。
確かに不動は最近ずっとこんな調子だ。
練習は何故か遅れて来るし何か思い詰めた顔はするし。それでも俺が心配して訳を聞こうとしても答えてくれなかった。
調子が悪いのは明らかで、他のメンバーだって薄々気づいている。
「不動、何かあったのか?」
「何もねぇよ」
「最近ずっと調子悪いじゃん」
「大丈夫だから心配すんな。んなことより練習だ」
不動はポンと俺の頭を撫でて、取り損ねたボールを取りに行った。
その時だった…
「不動!?」
普通に歩いていたと思えば急にその場に屈み込んだ。
俺は慌てて不動の元に駆け寄り、後に風丸と豪炎寺も続いた。
「不動、どうしたんだよ。なぁ!」
肩を揺すっても返事がない。みんなも驚いたようにこちらを見ている。
「佐久間…」
不動はそのまま俺に体を預けるようにして意識を失った。
「不動!しっかりしろ!!」
「監督は?」
「今響木さんのお見舞いに行っています」
「どうしよう…」
こういう時に大人がいないのは辛い。俺はどうしていいか分からなくてパニック状態だった。
このまま不動が死んでしまうような気がして…そう思うと涙が止まらない。
すると豪炎寺が
「しっかりしろ佐久間!お前は恋人だろう。ヒロト、手を貸してくれ」
そう言ってヒロトとに助けを求め、不動を宿舎まで連れて行った。
確かに俺がしっかりしなくちゃいけないのは分かってるけど……
こんな事になってどうしたらいいかなんて分からない。自分の無力さに呆れながらも風丸に側にいてもらい、俺も宿舎に戻った。
他のメンバーも心配そうな顔はしていたが、円堂の指示により、練習を再開した。
心配なのは分かる。だが今は決勝戦前。みんなは練習をしなければならない。イナズマジャパンの勝利。不動もそれを望んでいるはずだから…
―――
俺は風丸と一緒に不動の部屋の前で待っていた。
病院に行くのだってこういった海外では大人が必要であろう。どっちにしたって俺たちは責任が取れない。勝手な行動は許されないのだ。
取りあえず監督が戻るまで安静にしておこうということになった。
今は豪炎寺が不動を診ている。
「大丈夫だ佐久間。豪炎寺は医学にも詳しいからアイツに任せておけば安心だ。それに監督だってすぐ来てくれるから」
風丸はそう言って俺の背中を擦ってくれた。
そうか、だからさっきあんなに冷静に判断できたのか……
「さっきは取り乱してごめん…」
「仕方ないよ。状況が状況だったんだから」
「不動、大丈夫なのかな…」
「んー、アイツの事だから大丈夫な気もするんだけどな。ただ最近調子悪かったよな」
「俺、気付いてあげられなかったな…恋人なのに」
「佐久間……」
そんな会話をしていたら豪炎寺が部屋から出てきた。
「豪炎寺、不動はどうなんだ?」
「落ち着けって。俺は医者じゃないし検査もしてないから何とも言えないんだが…」
豪炎寺は言いにくそうな顔をして俺をちらりと見た。もしかしたら聞かない方がいいのかもしれない。
それでも俺は…
「お前の分かる事でいい、教えてくれ!!」
「…分かった。その前に少し聞いてもいいか?」
「えっ?」
「お前、不動と上手くいってたか?」
「うん…まぁそれは…」
「激しい喧嘩になった事や殴ったり殴られたりしたことは?」
「一度もないかな」
「なら最近お前以外で不動とよくいるようになった人物は分かるか?」
「そんなの知らない!なんでそんな事聞くんだよ、俺は不動に何があったか聞いてるんだ!!」
訳も分からない事を聞かれ続け、俺の苛々はピークに達してしまった。
「不動は誰かに殴られていたらしい」
豪炎寺は感情的になった俺を宥めるように落ち着いた声でそう言った。
その言葉に、今度は一気に頭が真っ白になっていく。
「殴られたって……何で?」
「俺もよく分からない。さっき知った事だから」
豪炎寺は不動をベッドに寝かせた後、脈や体温を測っていた。だが特に異常もみられず、以前からそのような象徴がなかったのもあり何らかの病気ではないことは確定したようだ。すると後考えられるのは―――
「暴力って事か?」
「ああ…」
豪炎寺自身有り得ないと思ったが、確認も含めて不動のユニフォームを少し捲ったら痛々しい痣があったらしい。
「本人の許可も得ていないからそこまで診てないが、恐らく暴力を受けていただろう」
「誰に…?」
「それは知らない。もしかしたらお前たちが喧嘩でもしたのかと思ったが佐久間が暴力を振るうようには見えない」
「俺は不動に暴力なんてしない!」
「だよな。だからお前以外の誰かって事だ」
淡々と話す豪炎寺にも動揺の色が見える。そしてその表情には悔しさや心配が表れる。豪炎寺も不動と仲良かったからな…
「でも何でそんな事……」
「分からない。ただ分かることは、犯人は悪意をもってやってるって事だ。でなきゃわざと見えない場所に痣を作ったりしないからな」
「そんな…」
「 これ、監督にバレたら不味いよな」
そう言って風丸は俯く。
「不動、決勝戦出られなくなるかもな」
豪炎寺もボソッと呟いた。
嫌だ…そんなの
こんな理由で不動がスタメン落とされるなんて
今日まで本当に頑張ってきたのはずっと側にいた俺が一番知ってる…
だからこそ嫌だ
「…兎に角不動に事情を聞こう」
俺はそう言って不動の部屋のドアを開けた。