episode24
気に入らない…
どこが気に入らないかと聞かれれば、すべてと答えられるだろう。
そのくらい鬼道は不動を憎んでいた。
お互いの取引の上で鬼道は不動に暴力を振るう。
鬼道は別に誰かを殴りたいだなんて危険な思想はもっていない。それが憎い相手であってもだ。
それでも鬼道はこの取引を了承したのは不動を試す為であった。
はじめ、不動がこの取引を提案したとき鬼道は信じられなかった。あれだけ自分中心に回っていた不動が自己犠牲なんて考えられない。
だから途中で絶対無理と言うだろう、やっぱり撤回したいと泣きついてくるだろう、そう思っていたからこそ取引をした。
だが、不動の意志を曲げることは出来なかった。勿論鬼道は手加減なんかしたつもりはない。それなのに何も言わず、不動は耐え続ける。
そしてそれは不動がどれだけ佐久間の事を想っているかを意味し、鬼道は自分がしている事の惨めさを突きつけられた。
今日もいつものように暴力を振るった。やはり不動は弱音一つ吐かない。
その意志の強さが返って鬼道を苛立たせる。
「別に無理だったらいつでも言っていいんだぞ?」
「無理なんかしてねぇよ」
俺を殴れば満足なんだろ?そう言って余裕のある笑みをみせる不動に苛立ち、鬼道は再び暴力を振るった。
いつになればコイツは折れるのか…鬼道はそればかり考えて行動していた。
不動がいなくなれば佐久間は自分のものになると思っていた。
しかし佐久間は本当にそれで鬼道のものになるのだろうか。
普段なら分かったはずだ。
だが今の鬼道にはそれすらも分からない。
鬼道は既に周りが見えなくなっていた。
―――――――
「今日は終わりか?」
「もっとやって欲しいのか?」
「んな事言ってねぇけど」
どんなに痛めつけても不動は決して折れない。それどころか弱み一つ見せない。
どうすればアイツは折れるのか、最近そればかり考えていた。
「鬼道どうした、考え事か?」
円堂に訊ねられたが本音なんか言えるはずもなく、
「あ、まぁな…」
と、適当に返し、円堂の方を見れば佐久間と不動が視界に入ってきた。
二人とも仲良さげにしている。不動は俺に殴られたり蹴られたりしてるなんて誰も気付かないくらい淡々としているし、佐久間だって今までと何も変わらずにいる。
お互いに打合せでもしているのだろうか…。何事もないように振る舞おうと。
そう考えると再び妬みのような憎しみのような感情が沸き上がってきた。
不動と佐久間が一緒にいるのが嫌で堪らない。アイツらはどうすれば離れるだろうか。
いっそもう一度佐久間を犯すか?いや、それはまずい。犯された話をしなくても俺が不動に暴力を振るった事をばらされればそれこそ終わりだ。俺はここにはいられない。
どうすればいいんだ…
不動さえいなくなれば佐久間は俺のものになるのに。
アイツさえいなければ――
この苛立ちをどうする事もできず、俺は今日も不動に暴力を振るう事で己を保っていた。