episode23



日本代表は世界レベルの強敵相手に順調に勝ち進んでいった。

その途中には様々な障害があったものの、大事にはならずイナズマジャパンは安心して練習に励めていた。

そして長かった大会ももうすぐ幕を閉じる…。

次の試合は決勝戦。これに勝てば世界一となるのだ。それを叶えるべく、メンバーは一層練習に励む。





――――――


「うおー!!さっさと練習だ!!」

「ほら不動君、さっさと行くよ。佐久間君といちゃいちゃすんのは後〜」

「してねぇよ、うぜーな」



ミーティングが終わり、決勝戦が近いせいかチーム内には良い緊張感が流れ誰もが『世界一になりたい』という顔をしている。

それは俺もそうなのだが、このテンションはどうにかならないのか



「不動、早く練習に行こうぜ」

佐久間も張り切っているようで、俺の腕を引っ張る。

「いつも言ってんじゃねえか。先行ってろって」

「またかよ!なぁ不動、練習前に何してるんだ?俺に言えないような事なのか?」

理由も言ってないからいずれは聞かれると思っていた。だが言うわけにはいかない。俺は佐久間の頭を撫でて、

「自主練」

とだけ言った。


佐久間は渋々納得したようで、皆と一緒にグランドに向かった。

俺は皆が行った事を確認し、鬼道の部屋に向かう。




――――




「もう誰もいねぇぞ」

「そうか」

鬼道はそう言うと俺の胸ぐらを掴んだ。

「お前にしては我慢したと褒めてやりたいところだな」

「そりゃどーも」

「だがな、俺はお前のそういうところが嫌いなんだ」

鬼道がそう言うと同時に俺の体に激痛がはしる。

俺がそのまま倒れると鬼道は上から満足そうに俺を見下した。

「いつでも言っていいんだぞ?辛いからやめてくれって」

「…誰が言うかよ……」

俺がそう言うと鬼道は再び俺を殴り付けた。




あの日を境に始まった俺と鬼道の関係。

佐久間の事で狂ってしまった鬼道は佐久間の恋人である俺に暴力を振るう事で自らを保っていた。
だから練習に支障が出ないようにこうして暴力を振るうのだ。散々なくらい痛めつければ満足するようで、暫くすれば勝手に練習に行ってしまう。

今日も終わったようで、鬼道は部屋から出ていった。
俺は重い体をなんとか起こし、支度をする。



馴れねぇな…



まぁ暴力に慣れろという方が無理なのかもしれない。
生憎殴り慣れていても殴られる方の慣れはない。

鬼道がこれによって練習に支障が出ないのは良いが、俺に関しては支障だらけだ。

調子が悪い。自分の実力が出ない。



鬼道は本気で俺を殴ったり蹴るものだから体は既に悲鳴を上げていた。
練習中はなんとか耐えるもの、監督にも最近調子が出ていないと言われるし、自分でもそれはよく分かっている。

俺は偉くなるためにここまで来た。こんな何の特にもならないようなこと、以前の俺だったら絶対しない。そもそも誰かを好きになったりしない。
だが俺は佐久間に会って変わった。こんなにも誰かを愛しい、守りたいと思うようになったのも、みんなアイツに会ってからだ。

佐久間の為ならこのくらいどうってことない。そもそもこれは俺の償いなのだから…




「不動!」

グラウンドに行けば佐久間が俺の元へ駆け寄って来た。

「待ってたぞ。早く練習しようぜ」

そう言って無邪気に笑う佐久間は本当に愛しい。

「じゃあやるか」

俺は佐久間の頭をくしゃっと撫でてやると嬉しそうに笑顔をみせる。

そう、俺はこの笑顔を守るんだ…