episode21
佐久間は暫く泣いていたが、徐々に落ち着いてきたようで、俺を抱き締めていた腕の力がフッと弱まった。
「落ち着いたか?」
「ん……大丈夫。不動、ありがとな」
「これからは俺がお前を守るから心配すんな」
「不動……」
「この事はもう忘れろ。時間はかかるだろうけどお前には俺がいる。お前は今まで通り過ごしてればいいんだ」
俺がそう言うと佐久間は俺の頬に軽くキスをした。
佐久間からの初めてのキス。自分からしかしてなかったせいで俺がテンパっていると
「大好き」
佐久間はそう言って泣きはらした目で笑った。
俺はそんな佐久間が愛しくて愛しくて仕方なかった。
「ホントお前…その顔は反則だからな」
「なぁ不動、俺今日は不動と寝たい」
「分かった。じゃあ今日はここに泊まるか」
こうして俺と佐久間は寄り添うようにして眠った。途中何度か襲いたくはなったがそこは我慢した。ただ佐久間の寝顔は本当に可愛くて、緊張して背中を向けたものの寝息は聞こえるは体温は伝わってくるはでろくに眠れなかった。
次の日
目を醒ますと佐久間は既に起きていたようで、髪の毛を梳かしていた。机には美容品がたくさん置いてある。
「こんなモン使ったことねえよ」
「お前が使ってたら怖いもんな」
「めんどくさくねえか?」
佐久間はもう馴れたと言ってブラシを置いた。
そうだよな、これは鬼道の命令であって佐久間の意志でしていることじゃない。無理矢理犯されてもなお鬼道の言いつけを守る佐久間を見て胸が傷んだ。
そんな俺の内心を見透かしたのか、佐久間はでも、と付け足した。
「前はこんな事めんどくさくて嫌だったけど、不動に少しでも気に入ってもらえたらって思ったら苦じゃなくなったんだ。やっぱり好きな人には綺麗な自分を見せたいだろ?」
だから今も先に起きて準備していたのか。俺がそう聞けば、佐久間は寝起きの顔なんか見せられないと言って照れ臭そうに笑った。
「寝起きだろうとなんだろうと俺はどんなお前も好きだぜ」
「そんなの俺だって同じだから」
恥ずかしいのかそう言って目を逸らしてしまう佐久間はやっぱり可愛くて、俺はまた抱き締めてしまった。
するとマネージャーのミーティングを知らせる声が響き、俺たちは名残惜しいが体を離した。
「じゃあ行きますか」
「そうだな」
佐久間はいままでと何も変わらず過ごしていればいい。そうすればいつかは傷も癒え、幸せに笑える日がくるだろう。
だからお前は何も心配しなくていい。
ただ俺はすることが残っている。
「…不動?」
佐久間がキョトンとした顔で俺を見つめてきた。
「どうしたんだ?」
「何でもねえよ、ほら行くぞ」
俺はそう言って佐久間の頭を撫でた後、手を繋いで廊下を歩いた。
この小さな幸せを守るためにも俺はけじめを着けて、佐久間が心から笑えるようにしよう。俺は佐久間を守ると決めたから。
――――
佐久間の中ではなかった事でもいい。だが俺がけじめを着けなければいつまでたっても解決しない。
例え鬼道だとしても佐久間を傷つけたのならそれは許さない。
ミーティングと食事はいつも通りにして、俺は練習時間になるのを待った。
そして――――
「サッカーやろうぜ!」
円堂のこの一言で皆、グラウンドへと走っていく。佐久間は俺を待っていたようで、玄関に立っていた。
「不動、早く行こう」
そう言って俺の手を引っ張った。女子かよ!と突っ込みたかったが悪い気はしないので言わない。
アップが終わり、メンバーはそれぞれ自分の練習を始めた。
シュート練をする者やパス練をする者もいる。
「不動、パス練やろう」
佐久間はボールを持ってきたが今日は出来ない。
「悪い…、今日は―――おい風丸、佐久間とパス練やってくれ」
風丸はいきなりなんだと言うように俺を見たが、今は構っていられない。
二人が練習を始めたのを確認し、俺は鬼道の元へ向かった。