episode19



ミーティングルームにはほとんどメンバーが集まっていた。勿論佐久間も例外ではなく。だが鬼道は珍しく来てなかった。

俺は隅っこの方で大人しくしている佐久間に構わずいつもの定位置についた。その時佐久間は一瞬俺の方を見たが何の反応もしなかった。

おい、それはないんじゃねぇのか?

俺はここに来たら佐久間が駆け寄って来て、「昨日はごめんな。今夜続きしよう」と言ったら許してやるつもりでいた。まぁ続きしようは俺の願望だが…。
それを謝るどころか無視ってなんだよ。

すると俺の元に風丸がやって来た。

「不動、お前らなんかあったのか?」

「別に何も」

「佐久間の様子がどう見たっておかしいだろ。なんか俺が話掛けても一人にしててほしいみたいだし…。お前昨日なんかしたんじゃないか?」

「俺のせいかよ!」

「お前デリカシーなさそうだし」

俺はお前に言われたくねぇよと言って佐久間の元に向かった。

俺のせいかどうかも分からないのに無視されるのは流石に堪えられない。

「おい、佐久間」

名前を呼ぶとビクッと身体が反応した。明らかに怯えている。

昨日はあれだけ俺を求めていたのにこの差はなんなんだ。ここまでされるといくら俺でも傷つく。


「不動…?」

「昨日の事が嫌だったならそう言え。何も言わねぇでこんな態度取られんの気に食わねえんだよ」

「昨日の事は…嫌じゃ、なかった」

「じゃあ何でこんな態度とるんだよ!」

「ごめん…」

俺が感情的になったら佐久間は項垂れてしまった。こうなると今度は俺が慌てる番だ。どうやら俺は佐久間にはめっぽう弱いらしい。

「悪い、言い過ぎた…けどよ―――」


そこで俺の言葉を遮るように鬼道が入ってきた。


「おはよう鬼道、今日は珍しく遅いな」

「ああ。少し寝るのが遅かったからな」

鬼道はそのまま円堂と話していた。
いつもと変わらない光景だったが佐久間の様子はおかしかった。
普段ならわざわざ鬼道のところヘ言って挨拶をするのにそれもなく、それどころか鬼道に怯えているようにも見える。

「お前どうしたんだよ」

俺がそう言っても何も応えない。
すると鬼道が佐久間の元へやって来た。

「どうした佐久間。今日は挨拶がないようだが」

鬼道がそう言うと佐久間は驚きを隠せなかったようで、目を見開いて鬼道を見た。

「調子でも悪いのか?」

「いえ、何でもありません。すみませんでした」

動揺を隠すように淡々と言葉を発していたが声が震えていた。

そんな中、監督が来たのでミーティングが始まってしまった。





―――――――






練習が始まった後も佐久間の様子はおかしいままだった。

今朝の事を考えると鬼道が原因としか考えられない。

「おい、鬼道」

俺は休憩時間鬼道の隣に座った。

「お前が隣に来るなんて珍しいな。どうした?」

「いや、佐久間の様子がおかしいからよぉ…」

「俺なら何か知ってるんじゃないかと」

「まぁそういう事だ」

すると鬼道の顔が曇ったように見えた。気のせいだろうか。

「俺には心当たりないな」

「そうか」

「それと、佐久間の事はお前の方が詳しいんじゃないか?」

そう言った鬼道には何か嫌なオーラが漂っていた。これは気のせいじゃない。直感的に感じるものだ。

ゴーグル越しでは鬼道の目はよく見えない。それは本心が見えないのと同じだった。

コイツ、なに考えてんだ?とてつもなく嫌な予感がする。

「…不動?どうかしたか?」

「あ、いや別に何でもねぇ」

気のせいだとは思いたい。軽くどうした?と聞けば解決するはずだ。ただ、これについては聞いてはいけないような気がしてならなかった。





―――――――――






自由時間になると佐久間はすぐに自室に戻ってしまった。風丸もかなり心配しているようで俺に今朝と同じことを聞いてきた。

「不動!!お前本当になにもしてないのか?」

「だからしてねぇって。俺が何したっていうんだよ」

「例えば…うーん…――無理に押し倒したとか」

風丸がそんな事を言うから俺は盛大に噎せた。


「なんだ、図星か。お前達本当に分かりやすいな」

「うるせーよ!!」

「まぁまぁ。それより早く謝った方がいいぜ。佐久間はなんだかんだでお前が好きだからすぐ仲直りできるよ」

「言われなくても分かってんだよ」

「はいはいそうでしたねー」

「うぜぇ」


俺はそう言って佐久間の部屋に向かった。