episode17



夢なら良かったのに…


何度もそう願った。でも身体中が鈍い痛みに苛まれているのも、肌に鬱血した痕が沢山あるのも夢じゃないからなんだ。


「鬼道さん…ごめんなさい」

誰も居ないこの部屋で俺はひたすら謝った。

謝ってどうなることでもないのに…









愛する事は罪ですか?


幼いときに施設に預けられ、無邪気な同年代の男子に比べ怖い程大人しかった俺は一人ぼっちだった。
それでからか誰かを好きになったり愛される温かさを知らないまま成長していた。
でも不動を好きになったとき、誰かを愛することが、愛されることがこんなにも幸せなことなんだって初めて知った。

手をつないで

抱き締め合って

キスをして


だけど俺の愛は人を不幸にした。


「俺がどんなにお前を愛していた。お前は分からないだろ?」

あの言葉が…鬼道さんの声が、何度も繰り返される。俺を責めるように、それでいて哀しそうに。

鬼道さんがこう言ったとき、俺は抵抗なんて出来なかった。

鬼道さんは俺を愛してくれていた。ペットなんかではなくちゃんと一人の人間として。

俺は鬼道さんのそんな気持ちにすら気付いていなかった。親友に戻りたいなんて思って勝手に傷付いて。

一番傷付いたのは鬼道さんじゃないか

ごめんなさい、鬼道さん。俺は最低です。俺は鬼道さんに尽くすと決めたのに、鬼道さんを傷つけてしまいました。主人である貴方を裏切りました。


ごめんなさい

ごめんなさい


きっと赦される事はないのだろう。それでも俺は謝り続ける。











―――――――






身体を起こすと更に痛みが増した。けれど昨日は身体を充分に慣らしたから(俺もほとんど抵抗しなかったし)多分これでも痛みはましな方なんだと思う。なんとか立ち上がり、支度をする。

鏡を見て俺はついため息を吐いてしまった。

首筋にはあちこちに鬱血した痕が残っていたし手首にも掴まれた痕がくっきりとついていた。

ジャージなら平気だが、ユニフォームはまずい。
俺はジャージを着てぎりぎりまでジッパーをしめた


本当は不動に言った方が良いのかもしれない。でもそんなこと言って不動を失望させたくなかったし、何よりそれは鬼道さんを裏切る行為だ。

それでもいつかはバレてしまう。バレたらそれこそ不動を悲しませてしまう。だけどそうすれば鬼道さんが――


鬼道さんを裏切るか、不動を裏切るか。

今の俺にはその二択しかない。どっちを選べばいいのだろう。そんなの分からない。

俺にとっては二人とも大切な人。

鬼道さんは俺の恩人であり、ずっと前から俺を愛してくれていた。

不動は俺に恋を教えてくれた。優しくて暖かい幸せを沢山くれた。

都合のいい考えかもしれないけど主人と恋人、どっちかを裏切るなんて俺にはできない。


結局何も解決しないまま俺は部屋を出た。