episode14



走っても走っても二人の姿が頭から消えなくて、俺はグラウンドには戻れなかった。

やがて日が暮れ、俺はやむを得ず宿舎に戻った。


―――――



「鬼道さん」


就寝時間前になり、誰かと話す気にもなれなくて自室にいるとノック音が聞こえ、佐久間が部屋に入ってきた。そこには不動もいて自分の表情が曇るのが分かる。


「佐久間か、どうした?」


「どうしたって……今日は様子がおかしかったから心配だったんですよ?なっ、不動」


「俺は別に心配なんかしてねぇよ。お前が『鬼道さんの様子がおかしいから着いてきてくれ』って言うから着いてきてやったんだろ?」


それなら一人で来ればよかったのに。俺は佐久間だけで来て欲しかった
よりによって不動と一緒に来るとは…。


「で、天才ゲームメーカーの鬼道ちゃんが何を悩んでんだよ」


「いや、悩んでいるわけじゃない。今日は調子が悪かっただけだ」


「それなら良かったです」


「大丈夫ならもう行くぞ」


ニコッと笑った佐久間をよそに、不動は佐久間の腕を引っ張った。


「佐久間」


「なんですか?」


「この後時間あるか?」


「えっ…時間は、あ、その…」


困ったように佐久間は目を逸らす。


何で佐久間が困っているかは容易に分かる。
この後昨日のように不動と会うんだろう。それが分かっているのに今行かせる訳には行かない。


「もう就寝時間だから特に忙しい訳じゃないだろ?少しでいい。時間をくれないか」


わざと困るように言ってやると佐久間は泣きそうな顔で俺を見る。

それはそうだろうな。だってお前は不動との仲を秘密にしていたいのだから。そして何よりお前は俺の命令には逆らえない。以前なら直ぐにはいと言っただろう。
それなのに不動を気にして悩んでしまう今の佐久間を見て俺は苛ついてしまった。


すると


「話なら明日にしてやれよ。練習で疲れてんだろ?」


困惑していた佐久間を庇うように不動がそう言った。


「ごめんなさい、鬼道さん…」


佐久間が本当に申し訳なさそうに謝るので引き留められなかった。




俺は深いため息を吐いて電気を消そうとしたとき、


(あれは…)


出ていくときに落としたのか、リップクリームが転がっていた。

言うまでもないが佐久間の私物。唇に乾燥は大敵だからといって俺が買ったやつだ。


これを口実に佐久間に会える。


あぁ、俺はなんて嫌な奴なんだろう。
何かしら理由をこじつけて会おうとする。

自己嫌悪になりながらも佐久間の部屋に向かった。