episode15
俺は佐久間が部屋にいることを祈った。もしいなければ不動と会っていることが確定するからだ。
すると部屋からは灯りが漏れていて俺はホッとした。
だがそんなのは気休めでしかなかったのだ。
俺がドアをノックしようとしたときだった。
「んっ………」
消え入りそうな声だったが佐久間の声が聞こえ、俺は思わずノックを躊躇った。
「ちょっ、や……待って」
「悪い…それ無理」
不動の声まで聞こえてきた。恐らくいつもの場所を他の連中に(最近どこでもいちゃつく奴らが増えたし)取られてしまったから佐久間の部屋に居たのだろう。ノックなんか出来やしない。俺はその場に立ち尽くすしかなかった。
「まだ、心の準備とか…できてない」
「んな事言われても我慢できねぇよ」
「が、我慢しろ」
「そう言ってる割にはあまり嫌がってるようには見えねえけど」
「ひゃっ……う、るさい」
ガチャ
今度は流石に見過ごせず深呼吸を一つしてからドアを開けた。
案の定佐久間と不動がいた。前戯の最中だったようで二人とも辛うじて服は着ているものの、この後何が起きるはずだったのかは容易に想像出来てしまう。
熱に浮かされたようにのぼせていた佐久間の顔は俺を刺激した。
あんな顔は初めて見た…
「き、鬼道さん!?」
佐久間は不動の背中に腕を回していたが、俺を見るなり不動を突き飛ばしてベッドから跳ね起きた。
「忘れ物を届けに来たんだが取り込み中だったか?」
「いえ、違うんです!これは…その……新しいトレーニングを考えていて」
佐久間は完全にパニックになっていたが、不動はすこぶる機嫌が悪くなったようで暫く俺を睨んでいたが、なんのフォローもせず、舌打ちをして出ていった。まぁあんなところで止められては機嫌も悪くなるだろう。
「えっ、不動!?ちょっと待てって!」
佐久間が引き留めたが結局意味はなかった。
「すみません、お見苦しいところを見せてしまって」
「別に構わない。それよりほら、これ」
「あ、わざわざありがとうございます」
佐久間はそう言ってリップクリームをしまい、俺が立ちっぱなしなことに気がついたのか、ベッドに座らせた。
佐久間の部屋にはトリートメントや化粧水、ハンドクリームなどが余りあるほどある。
元々そういう物に興味がなかった(男なら興味ない奴の方が多いが)佐久間の為に俺が全部買ったのだ。
やはり折角綺麗なのだからケアもきちんとして欲しかった。
佐久間は律儀だからちゃんと言い付けを守って今もケアには気を遣っている。
そのお陰で佐久間は本当に綺麗になった。肩まである淡水色の髪は艶を帯び、褐色の肌はきめ細かく滑らかだ。
いつか俺のものになったときの為にずっと言い付けていた。
それなのにアイツは…
佐久間は不動怒っちゃったかな〜と溜め息を吐きつつ俺の隣に座った。
先程の光景が蘇る。まだ服を着ていたとはいえ中学生の俺には目に毒で、どうしても身体が疼いてしまう。
「そう言えば話あるって言ってましたよね?なんですか?」
佐久間はキョトンとした顔で俺を見た。
違う。俺が見たいのはそんな顔じゃない。さっきお前はしてたじゃないか。誰かを夢中で求めるような貪欲で妖艶な表情を…
俺はそんなお前をどれだけ見たかったか知っているのか?それなのに何故俺には見せてくれないんだ?なんで不動なんかに見せたんだ。お前は俺の事だけ考えていれば良かったんだよ。
「鬼道さん…?どうかしましたか?」
心配そうに俺の顔を覗きこむ佐久間の首筋には鬱血した痕が一つ。
そこで俺の理性は音を立てて崩れてしまった。