episode13



昨日はあの出来事のせいで眠れなかった。
朝、ミーティングがあるので俺は支度をして自室を出た。ミーティングルームには既に多くのメンバーが集まっていたが、佐久間と不動はまだだった。


「鬼道!」


円堂が手を振って俺を呼ぶ。どうやら隣に座れということらしい。俺は円堂の隣に座った。


円堂と今日の練習メニューについて話していると勢いよくドアが開いた。


「間に合った〜!」


佐久間が息を切らせて入ってきた。


「まだ集合時間前だから大丈夫だぞ」


風丸がそう言うと


「えっ!?ホントだ…慌てて損した」


と苦笑いして風丸の隣に座った。ある意味俺の隣でもあるが…。


「鬼道さんおはようございます」


「ああ、おはよう」


俺は目線を逸らして挨拶した。佐久間を見ると昨日の光景が鮮明に浮かんでしまうからだ。
佐久間は風丸と話をしている。二人の会話は女子みたいにちょっと騒がしいが、いつも楽しそうだ。二人が何の話かは分からないが佐久間が浮かれているのが声でわかってしまう。それは風丸も気付いたようだった。


「佐久間、今日なんかテンション高いな。何かいいことでもあったのか?」


「んー、まぁちょっと」


風丸が気になるな〜と教えて欲しそうに佐久間を見たが佐久間は秘密とだけ言って笑った。


「このメニュー良くないか?今日やってみようと思ってさ」


「………ああ、そうだな」


円堂の話は完全に聞いてなかった。そんな事言えないので適当に相づちを打ちごまかした。申し訳ないな。

暫くしてまたドアが開いた。


「何だよまだ始まってないのか」


声の主は不動だった。佐久間はその声に反応しパッと後ろを向く。すると目が合ってしまったのか恥ずかしそうに頬を染め、俯いてしまった。その仕草は初恋をした少女のように可憐だった。



やがて全員が集まりミーティングが始まった。
俺は放心状態で何も覚えていない。練習が始まるので皆は準備をしていたが、俺はまだボンヤリとしていた。


「鬼道!」


再び円堂の声で我に返る。


「どうした?昨日からずっとこんな調子だよな。何か悩んでるなら相談してくれよ」


「心配掛けてすまない。少し考え事をしていただけだ」


円堂には悪いがこんなことを他人には相談出来ない。例えそれが仲間でも。





練習が始まって、なんとか集中しようとしたが二人を見るとどうしても集中力を欠いてしまう。昨日の事が気まずいのかお互いに距離をとっているのが却って俺を苛立たせた。するとそんな俺に我慢できなかったのかとうとう久遠監督は俺を叱った。


「こんな練習をするならグラウンドから出ろ」


「すみません。少し外を走ってきます」


俺はそう言ってグラウンドを出た。






何故だ?俺はこんなにもアイツの事が好きなのに。どうして不動なんかに取られなくてはならないんだ?俺は不動よりもずっと前からアイツが好きだったのに。俺が想いをちゃんと伝えなかったからか?いや、そんなはずはない。

じゃあ何で俺から離れた…?

佐久間は俺に尽くすと言ったじゃないか。命だって捨てられると誓ったじゃないか。

それなのに…

佐久間は俺のものだろう?
まさかこの俺を裏切るというのか…