episode9



「お前さぁ、何で鬼道に敬語使ってんだ?」


和解してから間もない頃、不動にこう聞かれた。


「昔色々あってな」


「学費の事だろ?」


何でそれを知ってるんだと聞けば真帝国に入ったときにそういう過去の話も知ったと返された。

何てプライバシーのない学校だったのだろうと思ったが、影山の作った学校である、何でもありなのだ。






「なら聞く事ないだろ?鬼道さんは俺の恩人であり主人でもあるんだ」


「それがおかしいだろ?学費を一回援助したってだけで鬼道に服従するなんてよ。本当はお前、無理してんじゃねえのか?」


「それは……」


「昔みてぇに友達として関わりたいんだろ?」


「……………」


俺は何も言えなかった。理由は図星だったから。


「まぁ今更タメ語にすんのは難しいのかもな。でもお前はお前。鬼道のペットでも何でもない一人の人間なんだぜ?それを忘れるなよ」



最後にじゃあな、と言って不動は行ってしまった。


俺はそんな不動の背中をいつまでも見ていた。


俺の本音を分かったのは不動だけだ。鬼道さんの事は誰にも言ってなかったのに…。不動は俺の気持ちを分かるのだろうか。それに


『お前は一人の人間なんだぜ』


この言葉が心に響いた。本当はこんな言葉を待っていたのかもしれない。ずっとペットだの何だの言われ続け、俺に人権なんてものはなかった。気にしてないフリはしていたが本当はすごく苦しかった。
鬼道さんとの関係はこれからも変わらないだろう。だけど俺自身は変われるような気がした。

変われるきっかけを作ってくれたのは――。

その時トクンと胸が高鳴るのが分かった。


どうしたんだろう…?

今までにない感覚だった。苦しいような暖かいような切ないような。そんな感覚。

これがなんなのか頑張って考えたが結局分からなかった。