episode7
父親からは既に了承は出た。後は佐久間を説得するのみ。
大事な話があると言って、部活が終わった後俺と佐久間は皆が帰るのを待った。
やがて最後まで残っていた者も帰り部室で二人きりになった。
「どうした鬼道、話って…」
「単刀直入に言おう。佐久間、お前は帝国学園に残れるんだ」
俺の言葉に面食らったようで佐久間は唖然とした。
「の、残れるってそんなはずないだろ。俺は学費払えないんだ」
「だからその学費を鬼道財閥が払う事にした」
「えっ!?」
「だからお前はこれからも帝国学園の一員でいいんだ。」
これで佐久間が了承すればめでたしめでたしで終わりだ。
しかし佐久間は首を縦には振らなかった。
「鬼道、お前の気持ちは嬉しいがそれは出来ない」
「何故だ!」
「いくら親友だからといってもお前にそこまでしてもらう義理はないはずだ」
佐久間が言っている事は正しい。確かに仲が良いからと言って金銭的な問題にまで足を踏み入れてはいけない。
それでも俺は…
「俺の為にそこまでするなよ。俺は大丈夫だから」
そんなの納得出来ない。佐久間は大丈夫はずないのだから。退学が決定した時、佐久間は表にこそ出さなかったが悔しくて堪らなかっただろう。
それに佐久間が生真面目で融通が聞かないのも俺は知っている。だからこんなにも都合のいい話も乗らないのだ。
それなら言い方を変えればいい…
「ならこの事はお前の為じゃないとすれば納得するか?」
「それは…」
「佐久間に残って欲しいのはFFで勝つためだ。つまり俺の為に残ってくれということになる。それなら良いだろ?」
こうなれば佐久間は断る理由などなくなる。
「鬼道……本当に良いのか?」
「当たり前だ」
「それでも割りに合わない…そうだ!俺に出来ることならなんでもする。何かないか?」
なら恋人になってくれ。本音はこうだが今の佐久間にこんなこと言うほど俺は卑怯じゃない。
「いや…別にないが」
「じゃあ参謀になる」
「今もそうだろ?」
「違う。今までは参謀とはいっても鬼道と対等でいた。でももう違うだろ?これからは鬼道に……いや、鬼道さんに尽くします」
佐久間はそう言って俺に頭を下げた。
俺は佐久間の潔さに驚いたが、それがまた魅力的であったりする。
「尽くすと言うなら一つしてほしい事があるんだが…」
「何ですか?」
俺は佐久間の髪にそっと触れた。以前触った時は『いきなり何だよ』と怒られてしまったがそれもせず、じっとしていた。
「髪を伸ばして欲しいんだ」
「髪………ですか?」
「ああ。肩まであると良い」
「分かりました」
暑苦しいと言ってショートカットにしていたのに俺の一言で伸ばす事が決まった。それが堪らなく嬉しい。
この日を境に佐久間は変わった。
勿論他のメンバーには今まで通りだが、俺に対する態度は一変した。言葉使いはすべて敬語になり、友達のようなやり取りも一切なくなった。
俺の為に髪を伸ばしたり肌の手入れをする佐久間の姿は従者……と言えばまだ聞こえが良いだろうがそんなふうには見えない。
ずっとがさつで髪や肌の手入れなんてしなかったものだから、当然周囲の目には異様に映った。
そのせいで周囲からペットだの何だの言われ放題言われたが、佐久間は以前のように怒る事もなくただじっと我慢していた。
言い返さないのは認めたことと同じ。佐久間は自分でペットになる道を選んだのだ。
まだ参謀っぽい仕事を任せても良かったのだが俺は優秀だからといってそんな理由で佐久間に仕事をさせる気は毛頭ない。
佐久間だって俺がおかしな事ばかり頼むから怪訝そうな顔はする。それでも口答えは決してしない。
こうして佐久間は俺に従順なペットになった。
こんなこと思うのは不謹慎だし最低だと思うが、俺は佐久間が従順になっていくのが嬉しくて仕方がなかった。
ずっと求めていた主従関係がとうとう叶ったのだ。佐久間は俺の為なら命も捨てる覚悟だと真剣な目をして言った。命を捨てられるなら身体も心も俺にくれるはずだ。
いつでも恋人になってくれる。そう思うと心に余裕ができて、もう少し俺の事を好きになってもらってからにしようなんて考えてしまう。
欲しいものが自分の手元にあるとこんなにも嬉しいものだと俺は初めて知った。
佐久間は絶対裏切らない。俺がどこかに行こうとも佐久間は俺を待っていてくれるだろう。
そして俺の予想は当たった。真帝国は洗脳があったからなしとすれば一回も俺を裏切っていない。俺が雷門に行ったからといっても源田と付き合ったりなんてこともなかったし、髪や肌の手入れも決して手を抜かなかった。
俺のペットは恐いくらい従順だった。