episode3



朝練が終われば今度は授業。サッカー部はこの日常を毎日繰り返す。帝国は授業の進度が速く、一回授業を休んだだけでも厳しい。特にトップを維持する俺や佐久間は絶対に休めないから体調管理も重要だ。
1年A組のサッカー部員は俺、佐久間、源田の三人。
源田は授業の大半は寝ているのでいつも追試や補習に追われている。
やはり疲れているのだろう。それでも佐久間は練習には毎日出ているし家ではデータを集めたりメンバーの練習内容をチェックしている。それに勉強の時間があるのだから一体いつ寝てるのか心配だ。


「次の問二、鬼道」


急に名前を呼ばれて驚いた。俺が答えてすぐ座ると隣の席の佐久間がお前ボーッとしてただろと先生に気付かれない声で言った。
本当にここ最近上の空な事が多い。大抵佐久間の事を考えている。なんとかしようとは思う。

どうすれば――――――



「鬼道!!」


再び名前を呼ばれた。俺は持っていたペンを大袈裟に落としてしまった。佐久間はあきれながらペンを拾い上げる。


「大丈夫かお前。もう昼休みだぞ」


「そ、そんなこと分かってる」


いつのまにか昼休みになったようだ。当然四時限目の教科のノートは真っ白。
後で佐久間にノートを借りるしかない。源田はおそらく書いてないだろうしな。


昼休み


サッカー部員のレギュラーはみんな屋上に集まる。メンバーは昼食をとった後、いつものように談笑していた。俺は部活の中心である佐久間や源田、辺見と話す事が多い。今日も授業の話や次の試合について話していた。


「次の対戦校って結構有名なとこらしいですよ。」


「よく名前を聞くからな。キーパーが強いらしい」


「佐久間。シュート止められないようにしろよ」


辺見がそう言うと佐久間はぺしっと辺見の額を叩いた。


「お前に心配されたくねえよハーゲ。それに今はツインブーストもあるから余裕余裕。なっ、鬼道」


「ああ」


自信満々に答える佐久間に相づちを打つと辺見がそう言えばと話題を替えた。


「っていうかずっと思ってたんだけどさ、お前鬼道さんにタメ語だよな」


「ああ。その事か」


確かに同級生とは言え辺見や咲山たちは俺に敬語だ。源田や寺門は小等部から一緒だからタメ語だが。


それでも佐久間に『鬼道さん』って呼ばれたいなんて考えてしまう。その方が自分のもののようで気分がいい。当然だが辺見たちに鬼道さんと呼ばれてもそんな気はしない。


俺は少し冗談混じりに聞いてみた。


「なぁ佐久間。お前『鬼道さん』って言ってみろよ」


そう言うと佐久間は笑いだした。


「冗談言うなよ鬼道まで」

俺は結構本気だったんだが…。更に佐久間は俺にとどめを刺した。


「確かに鬼道はすげー奴だとは思ってるぜ?でも同じプレイヤー以前に鬼道は俺の親友なんだよ。親友にさん付けも変だろ」


ああ。お前は本当に気付いてないんだな。悪いな佐久間、俺はお前を親友だとは思ってない。例えそれがお前を悲しませることだとしても事実なのだ。ずっと恋人であって欲しいと願っていた。それができないなら俺に従う従順なペットでもいいとさえ思った。兎に角ずっと側にいてほしい。俺だけを見てほしい。
佐久間は俺の事だけ考えていればいいんだ。

なんて思っていたらいつの間にか話題は変わってしまっていた。