episode1



一年の二学期


「鬼道、次の対戦校の資料だ」


他のメンバーの練習状況を見ていると、佐久間は俺に資料を渡し、隣に座った。


「相変わらず仕事が早いんだな」


「まぁな。相手のチームデータを早くから知っておけばお前もゲームメークしやすいだろ?司令塔を支えるのが参謀の仕事だしな」


「ありがとう。いつも助かる」


賢く勘が良い佐久間は、いつもこうして対戦校のデータを集めてきたり、必殺技のアイディアをだしたりとよく働いてくれる。サポート役には勿体無いくらいの素晴らしい人材だった。俺が資料に目を通していると佐久間が話かけてきた。


「なぁ鬼道。練習が終わった後時間あるか?」


「特にはないが」


「良かったら宿題一緒にやらないか?数学難しくてさ」


「そうか。ならこの後俺の家で一緒にやろう」


練習が終わり、俺たちは家に向かった。





着くと早速宿題を開く。


「ここは公式を使って解けば簡単だぞ」


「本当だ。じゃあこの問題もか。ありがとな鬼道」


そう言ってペンを走らせる佐久間。
俺と佐久間は時々こうして一緒に宿題をしている。数学や理科は俺が、国語や英語は佐久間が得意だったのでお互いに教え合えるのだ。そのお蔭でいつも俺たちはトップクラスの成績だった。

意外に早く終わったようで佐久間はペンを置いて伸びをした。俺はお疲れと言って紅茶を入れた。


「今度のテストもこの調子なら大丈夫なんじゃないか?」


「いや、油断はできない。一回でも失敗したら取り返しがつかないからな」


佐久間はちらりと数学のノートを見ながら呟く。


佐久間は常にトップクラスの成績を維持しなければならなかった。理由は佐久間が特待生だから。

施設で育った佐久間には帝国学園の高い学費など払えるはずがなくスポーツ特待生として入学していた。だがスポーツ選抜で入った殆どの生徒の成績が余りにも酷かったらしくスポーツ特待制度が急遽廃止されたのだ。そんないきなりシステムを変えられるのかと思ったがそこは帝国、あっという間にシステムが変わってしまった。他の連中は元々金持ちばかりだったので大した支障はないものの佐久間は違った。

毎回テストの成績で、学年3位以内に入らないと学費を払わなくてはいけない。

つまり佐久間は常に上位の成績をキープし続けないと帝国学園にはいられないのだ。
帝国で3位以内に入るのは並大抵の事じゃない。それは俺もよく分かっている。だからこうやって忙しい中協力して勉強するのだ。


佐久間には帝国にいてほしい。あんな優秀な参謀は滅多にいないしFWととしての能力も高い。そんな佐久間が抜ければチームに支障が出るから試合に勝ち続けるのは難しくなるだろう。


そしてなにより―――


「鬼道、この紅茶美味しいな」


佐久間はそう言って再びカップに口を付けた。

サラと微かに薄水色のショートカットの髪が揺れると思わず触って見たくなる。あんなに綺麗な髪なんだからもう少し伸ばして欲しい。肩くらいまであったらいいな。そんな事を考えながら見ていたら佐久間は困ったように俺の方を見ていた。


「なんだよさっきから俺の顔見て。顔になんか付いてるか?」


「ああ、悪い。何でもないぞ」


俺は慌てて視線を逸らした。佐久間は不思議そうに俺を見たが気にしなかったようだ。


危なかった。悟られでもしたら大変だ。


いつからだろう。それはもう解らないが、気がついたら俺は佐久間にチームメートや親友以上の特別な感情を抱くようになっていた。それは徐々に大きくなっていて、最近親友でいられる自信がない。佐久間は俺の事を慕ってくれているがそれは友人として。以前『鬼道は俺の最高の親友だ』と言われ、俺がどんなに傷ついたか言った本人は知らない。

大部遅い時間になってしまい、佐久間はお邪魔しましたと言って帰っていった。

さっきまで佐久間のいた俺の部屋。微かに佐久間の香りがする。俺はベッドに寝転んだ。ボンヤリと天井を眺めていると佐久間の顔が浮かぶ。


「俺のものにはならないのか…?」


ポツリと呟いた。


俺がこんなに好きなのに佐久間は俺を親友としか見てくれない。佐久間を自分のものにしたい。と何度思った事だろう。俺の家で宿題をしている佐久間を押し倒したいという衝動に何度駆られたことだろう。
何も知らない佐久間が少し憎たらしくも感じてしまう。俺が夜、佐久間で処理してるなんて本人に言ったらどんな反応をするだろうか。
言うつもりはないが気になる。

佐久間はどうすれば振り向いてくれるのだろう。もしかしたら親友と見られているのが良くないのかもしれない。もっと別の関係になればいい。主従関係なんていいじゃないか。そうすれば佐久間はずっと俺のものだ。ただどうすればそんな関係になれるかは分からない。
転機が訪れればいいんだがな。

俺はそんな事を考えながら眠りについた。

いつかは絶対にものにしてみせる。



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