罪人の憂鬱




佐久間がチームに代表入りしたとき不動は驚いた。代表候補に選ばれたことすら意外だと思っていたからだ。落ちてしまったが、あれだけの大怪我をして長いブランクがあったのだから仕方ないとも考えていた。それなのに代表入りしたのだ。
まぁ俺には関係ないか。なんて思い今日も練習に励んでいた。

「みなさーん、休憩時間ですよー」

マネージャーの声が響く。選手たちは仲の良い者同士で集まり疲れをとる。
不動は新しい必殺技を完成させるために鬼道を探していた。すると鬼道は佐久間と一緒に休憩していた。

「練習の後ちょっと付き合えよ」

そう言うと佐久間は不動を睨み、完全に敵意を向けている状態だった。

(嫉妬むき出しじゃねぇか)

と呆れつつも、練習が再開したのでグラウンドに向かった。

そして練習が終わり、チームのメンバーが戻った後も不動と鬼道は必殺技を完成させるために練習を続けた。


「……なかなか完成しねぇのな」

「そう焦るな。さっきよりは良くなってきたぞ。今日はもう戻ろう」

「そうだな。明日も練習あるからし下手に無理して体調崩すのも効率悪ぃし」

「…………………。」

「どうしたんだよ鬼道クン」
「あ、いやお前に言ってもっていう話だから」

「なんだよその言い方気に入らねぇな。俺が聞いてやるって言ってんだから言え」

「…すまない。その、佐久間のことなんだ」

聞かなきゃ良かった。不動は後悔した。てっきり練習のことで悩んでるんだと思っていて、まさか恋のお悩みだなんて思いもしなかった。

「あいつ、俺のこともう好きじゃない気がするんだ」

「何言ってんのお前?」

佐久間なんてどう見たってお前のこと好きだろ。そう言ったが鬼道は首を横に振る。

「いや、俺は雷門にいることを選んだんだ。それはあいつを裏切ったということだ」

「だから好きじゃなくなったなんておかしいだろ」

不動面倒くさそうに頭の後で手を組んだ。

「けどな、ないんだよ」

「何が」

「俺が佐久間の誕生日にあげたペンダント」

不動は思わず目を見開いた。

(もしかしてアレか…?)

「あいつ、あげたときはすごく喜んでくれてな、ずっと着けていてくれたんだよ。それなのに代表選抜の時も今も、着けてるとこ見てないんだ。」

「…………じゃあ本人に聞けよ。あれどうしたって」

「いらなくなったって言われるのが怖くて無理だ」

「んー、まぁなんか事情があるんじゃねぇの?取り敢えず今普通に話せるんだからよ。ほら早く宿舎に戻ろうぜ」

「ああ…」

鬼道は納得していないようだったが、これ以上その話をしたくなかった。あのペンダントを佐久間が持っていないのは不動のせいなのだから。

真帝国にいた時、見捨てられても鬼道を想い続けている佐久間があまりにも滑稽に思え、取り上げたらどんな反応するか面白半分で試したのだ。取り上げたら案の定泣き喚いて煩かったので、ついでにエイリア石で洗脳した。あの後、気絶した佐久間を放っておいてペンダントを自室に持っていった。再びペンダントを見て随分高そうだななんて思いながら返すつもりもなかったので適当に引き出しにしまっておいた。

そして真帝国が沈んだ時、逃げるので精一杯でペンダントの事なんてすっかり忘れていた。

つまり今あのペンダントは愛媛の海の底にあるということになる。もし今鬼道がこの話をしなかったら完全に忘れていた。だが言えなかった。言ったらどうなるだろう。別に嫌われたくないなんてつまらない理由ではない。ただそんなことでまたいざこざを起こしても、なんの得もないということだ。そしてなにより、それを言うならまず佐久間に言うべきだと柄にもなく思ったのだ。けれど佐久間にもいうつもりはない。そう思うだけであり、あんな鬼道大好きなキャンキャン吠える犬に今更そんな説明をしたくない。恨んでないのかは気になるが、聞くまでもないと思っている。

(めんどくせー事思い出しちまったじゃねぇかよ…)

不動は深く溜め息を吐いて自室のベッドに寝転んだ。




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