Hand Shake




長かったFFIもとうとう幕を閉じた。

あれだけ長いように感じた大会も、こんなにもあっという間に終わってしまうものなのかと思うと佐久間は少し寂しくも感じてしまう。

はじめは自分自身の人見知りな性格のせいで、チームに馴染めず帰りたいと何度も思っていたが、みんな親切で、特に風丸とは仲良くなったし他のメンバーとも楽しく話せるようになった。

そして鬼道とは誤解が解け、不動とは―――


(FFIに出れて良かった…)

佐久間は心の底からそう思う。
勿論サッカーの技術を成長させられたのもあるが、精神的にも成長できたのが、そして新しく仲間ができたのが嬉しかった。

帝国の仲間に会いたいという気持ちはあるが帰りたくないという気持ちもある。


「佐久間」

ぼんやりと今までの事を振り返っていると声を掛けられた。

「風丸?」

「あのさ…解散してもメールとかしてくれよ」

「も、勿論!俺だって風丸と連絡取り合いたいから」

「ありがとう。俺、佐久間と友達になれて良かった」

「俺も風丸と友達で良かった」

二人で握手を交わしていると、そこへ鬼道がやって来た。

「二人ともここにいたのか。風丸、豪炎寺が呼んでいたぞ」

「分かった。ありがとな」

風丸はそう言って去って行った。



「FFI、とうとう終わったな」

誰に言うでもないように鬼道が呟く。

「ああ。長いようですごく短かった」

みんなと会えなくなるのは寂しいよな、佐久間がそう言うと、鬼道は彼の目を見詰めた。

「鬼道?」

「佐久間………一緒に雷門に来ないか?」

佐久間は信じられないと言わんばかりに鬼道を見る。まさか鬼道が自分を誘うなんて予想外であった。

だが、佐久間が迷うことはなかった。

「悪いな、鬼道。折角だが俺はそっちには行けない」

「…やはりお前は帝国学園に戻るのか?」

「ああ。お前のサッカーが雷門にあるように、俺のサッカーは帝国にあるんだ」

「そうか…すまなかったな」

「いや、こっちこそ申し訳ない」

「…学校が違ってもまたサッカーやろうな」

「約束だ」

スッと鬼道は手を差し出した。佐久間はそれに応えるように握手をする。

「「今までありがとうな」」

同時にそう言って、二人は別れた。






これで良かった。佐久間は後悔していない。

確かにイナズマジャパンに入り、雷門のサッカーに似たこのチームは好きになった。
だが佐久間には帝国が、そこで支えてくれた仲間がいる。
それは佐久間のサッカーが帝国にあるということ。

それでも一時期、雷門に転入したいと本気で思ったこともあった。
しかしそれは鬼道を追いかけていたから。
決して自分の気持ちではなかった。

けれど今は違う。

自分の道を、本当に進みたい道を自分自身の意思で決められる。

(俺も変われたんだな)

また鬼道とサッカーができる日が楽しみになった。






――――








今日で解散だと言われても実感など沸くはずがない。

大抵のチームメイトは地元に帰って数日間休めばまた元の生活に戻る。

だがこの男…不動明王は違った。

実をいえば大会に夢中で、解散後のことなんてちっとも考えていなかったのだ。
だから自分が行く学校も、それどころか愛媛に戻るか東京に残るかも決めていなかった。

愛媛に戻れば本当に佐久間と会えなくなるし、鬼道とだって会えない。

ただそれはそれで佐久間の事を諦められるかもしれないからと、選択肢に入れていた。

そもそも東京にいられるアテはない。


「不動」

今後の事を考えていると隣に鬼道がやって来た。

「なんだよ」

「佐久間のところには行かないのか?」

鬼道は、俺は行ってきたぞ、と付け加えた。

「そりゃ鬼道クンが行けば喜ぶだろ」

不動は軽く投げやりな態度で返してやった。


羨ましくないはずがない。

結局最後の最後まで諦めるなんて事できるはずもなく、今この瞬間も不動は佐久間が好きだ。

それでも佐久間は鬼道が好き。

(鬼道クンには敵わねぇな。でもまぁ…)

例え羨望の対象だとしても、それ以上に不動は鬼道が好きだった。

切磋琢磨できるライバルとして
信頼できる親友として


「お前はこれからどうするんだ?」

聞かれたくないことを聞かれたなと不動は思ったが、何も考えていなかったのは自分のせいだから仕方ないとも思った。

「まだ決めてねーよ」

「俺は東京に残って欲しいんだがな。また戦いたい」

「いや、東京には残る気はねぇ」

「何故だ」

「これを機に佐久間の事を諦められると思ってよ」

「不動…」

「だから俺は――」

「フン…お前は意外と意気地無しなんだな」

「は!?」

いきなり態度の変わった鬼道に驚かずにはいられない。

「それは諦めるというよりかは逃げるという事じゃないのか?」

「うっ…」

鬼道に核心を突かれて不動は黙らざるを得なかった。

「以前俺に逃げるなと檄を飛ばしたお前らしくないぞ?」

それを言われると辛い。それでも傷つくのは誰だって怖いものだ。

「さっき佐久間を雷門に誘った」

「本当か!?」

「まぁ見事に断られたがな」

鬼道は少し寂しげに笑った。

「自分のサッカーは帝国にあるのだと、さっき佐久間が言っていた」

「アイツ…変わったな」

「俺もそう思う」

「で、鬼道クンはどうするんだよ」

「俺は雷門に行く。佐久間の想いを無駄にはしたくないからな。アイツが自分の道を進むのだから俺も同じだ」

「そうか」


すごいな。不動は素直にそう思えた。
自ら佐久間を雷門に誘い、断られたとしてもそれはそれで彼の意思を尊重し、鬼道も自分の道を進む。

不動にはそれができるだろうか。
佐久間と一緒にいたい。その気持ちを伝えられるのか、行動に移せるのか。


「次はお前の番じゃないのか?」

ポンと肩を叩かれる。

「俺の番…?」

「このまま会えなくなるのは嫌だろ?お前が今出来る限りの事をすればいい」

鬼道は行ってこいと背中を押した。
だが不動はすぐには行かず、鬼道の方を向いた。

「不動?」

「まだ…だったろ?」

不動はそう言って右手を差し出す。
鬼道はそれを見て理解したようで、それに応えた。

「不動、お前は最高のライバルだ」

「随分有り難ぇ事言ってくれるじゃねぇか」

「今までありがとうな」

「俺の方こそ感謝してる」


お互いに目が合い、ついつい笑ってしまった。
何せ相手がどう思っているか分かってしまったから。
それだけ二人の絆は強い。

(寂しいなんて言わねぇからな?)

(お前のキャラじゃないもんな)

友情を確かめるように二人は握手を交わす。

そこには、かつていがみ合っていた面影などはなく、深い友情を築いた親友同士の姿があった。

「「またサッカーしような!!」」






――――









絶対に諦めない

親友からもらった勇気は心強く、不動を佐久間の元へと急がせた。

「佐久間」


愛しい彼は、名前を呼べばふわりと柔らかい笑顔で振り返った。

「俺のところにも来てくれたんだな」

「当たりめーだろ」

「不動…その、今までありがとうな」

佐久間はそう言って手を差し出す。

まさかあんなに敵対していた不動に感謝するなんて入った当初は思いもしなくて、それを振り返るとこの状況がおかしかった。

不動は佐久間の差し出した右手をちらりと見てから佐久間に訊ねた。

「お前のそれは何の意味でやってんだ?」

「意味?それは今までありがとうっていう感謝の気持ちかな」

「ヘー」

「それよりほら、早く手、出せよ」

焦れったそうに右手を出している佐久間を無視して不動は彼の額を軽く指で弾いた。

「痛っ!!何すんだよ!」

「悪いがそれには応えねぇぜ?」

「何で?」

「分かんねぇならそれの意味についてよく考えるんだな」

「意味…」

「まぁ鈍感な佐久間には分からねぇかもな」

「失礼なっ!!」

佐久間がムキになると、不動はからかうように彼の頭を撫でてやった。

「俺を子供扱いするなよ!」

「なら精々身長伸ばすんだな。俺にも抜かれただろ」

「お前が急にでかくなっただけだ。すぐ抜いてやるからな」

ここ最近身長が伸びなくなった、なんて言えない。
成長期まっただ中のはずなのにちっとも伸びないのは佐久間の悩みであった。

「変声期終わるといいな」

「煩い!」

久し振りに不動相手にキャンキャン吠えたが、ポンと優しく頭に手を置かれると何も言えなくなってしまう。

いつからかこうやって不動に頭を撫でられるのが好きになっていた。

頬に朱が差している佐久間をよそに、

「じゃ、またな」

それだけ行って不動は去って行った。









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