相談



授業の三時限目というのは退屈だ。二時間授業を受け続け、ある程度疲労を感じる上に終わったって次はまた授業。

エリート校であるここ帝国学園でさえ集中力を欠く生徒が続出する。
そしてサッカー部のレギュラー、源田幸次郎もその一人であった。


(暇だ…)

一、二時限目共に学科授業で退屈していたのに今は数学だ。退屈しない訳がない。そもそも勉強が嫌いな源田にとっては暇で仕方なかった。

すると小さなバイブ音で自分の携帯が鳴っているのに気がついた。

(あ……)

幸い教師は話す事に熱中していたため音には気づかないようだ。

「先生、トイレ行ってきます」

そう言って携帯がばれないようにしながら教室を出た。



『何かあったら電話しろよ』

源田は佐久間がライオコット島に飛び立つ前にしつこいくらいそれを言い付けておいた。

佐久間は悩みを一人で溜める事が多いから、離れているせいで彼の苦しみを見逃したくなかったのだ。


あの時は

真帝国学園にいた時は

救えなかったから



ライオコット島とは時差があるだろうから授業中に掛かってくる可能性だってある。その為にも源田はバイブ音を最小に設定しておいた。

授業なんかより佐久間が大事だ。

屋上まで駆け上がり、電話を開く。

「良かった。まだ切れていない――――もしもし?佐久間?」

「……げ、んだ…」

「どうしたんだ?」

「俺…分からないんだ…」


泣いているのかもしれない。源田は宥めるように話し掛けた。

「大丈夫だ。一緒に解決方法を探そう。俺に話してくれ」

「源田…俺、不動が好きなんだ」

「!?」

思わず携帯を落としそうになる。
和解したとは聞いたがまさか佐久間が不動を好きになるなんて思いもしなかった。

「そうなのか…」

「今までずっと鬼道が好きで、鬼道のことばかり見てたのに…不動の事が気になって仕方なくて」

「佐久間…」

「勿論これが鬼道を裏切る事になるって分かってる」

「いや、それは違う」

「源田?」

「いいか?人は沢山の経験を経て変わるんだ。その際に気持ちが変わることだって普通にある」

「…でも俺は鬼道を裏切った」

「変わる事と裏切る事は違う。現に今お前は鬼道の事を大切に考えているからこそ悩んで俺に相談してるんじゃないか?」

「それは――」

「恋愛っていうのはそういうものだ。大事なのは相手を思いやること。お前はそれができてるんだから自分の気持ちを信じろ」

「………ありがとう」

「まぁ今は優勝することを考えろよ?大事な時期なんだから」

「ん、分かった」

「応援してるからな」


それから何度か会話を交わし、電話を切った。



「変わったんだな…アイツも」


源田は心なしか安堵した。

今まで熱に浮かされたように鬼道を追いかけていた佐久間を源田はずっと見てきた。
それにより傷付く度に佐久間自身の危うさが露になって、心配もしたし源田自身も傷付いた。


源田も佐久間が好きだったから


佐久間が鬼道と付き合っていた頃から源田は彼を好いていた。
勿論自分より鬼道の方が相応しいと思っていたからその当時は何も思わなかったが、世宇子に負けて、真帝国学園にに入って、自分のものにしたいという感情が強くなった。

だが、結局源田は、自分は佐久間には相応しくない存在なんだと結論付けた。
それからは恋愛感情というよりは、慈愛の気持ちが彼の中で芽生えた。

兄弟のような気持ちなのだろうか。
それはよく分からないが、友人として佐久間を支えたいと今思っているのは確かだった。


そして源田自身は――



「あれー?源田先輩、こんなところで何してるんですか?」

「成神…」

「やっぱりサボりですか。先輩も意外とワルですねぇ」

「そういうお前もサボってるだろ」

「つまんないから抜けてきちゃいました」

悪戯っ子みたいに笑う成神の頭を少し乱暴に撫でてやった。

「わっ!?…先輩!?」

「じゃあ一緒にサボるか」

「……!…はいっ!!」


源田と成神は広い屋上で寝転んだ。


源田は…今は…

誰かの気持ちに応えたいと思っている




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