Cange the mind



分からない…



何でこんな気持ちになるのんだろう





―――――



佐久間はダークエンジェルとの激闘を他のメンバーと一緒に観ていた。

勿論無事に勝てるように祈っていたし、応援だってした。

だが佐久間の中で何かが違った。

(何で…?)


試合に出ない事は今までだってあった。だがその時はチームの動きやチームメイトの必殺技を勉強するために全体を見渡すようにしていた。



それなのに


(何で俺……不動ばかり見てるんだろう)



始めは全体を観ていた。だが気がつけば不動を目で追っている自分がいて、視線を変えても目に入るのは不動の姿だ。


(いつあんなプレースタイルになったんだ?)

自己犠牲のようなそれはあまりにも違和感を感じる。

(別人みたい)

けれど、そんな彼から目を離せなかった。
ピンチになれば自分があの場にいられないもどかしさを覚える。チャンスになれば心から喜べた。

それは今までだってそうじゃないか

そう自分に言い聞かせてみるが本当は違うと既に気づいていた。


(これってまさか…)


いや、そんなことはないと頭の中に浮かんだ考えを消す。


―――――







試合は勝った

しかし選手が受けた傷は大きく、応援していた者は急いで選手たちの元へ駆け寄った。

「大丈夫か!?」

「立てますか?」

「ああ、問題ない」

「兎に角戻って手当てしないと」


こうしてメンバーは協力して宿舎に戻っていった。

―――

チームメイトはマネージャーたちに手当てされていたが、不動は自分でやればいいと思い、自室にいた。
以前からどうも他人にそういうことされるのは苦手な性分なのだ。


コンコン


「入るぞ?」

声の主は佐久間だった。どうぞと言えば救急箱片手に佐久間が入ってきた。

「ちゃんと手当てしなきゃダメだからな」

「別にお前に言われなくたってやる」

「……なら別にいいけど」

「なぁ、おい」

「ん?」

「何で俺のところへ来た」

「え?」

「何で鬼道のところに行かないんだって聞いてんだよ」

「それは――お前が心配だったから」

佐久間にだってそんなこと分からない。
確かに今までなら真っ先に鬼道の元へ行っていただろう。
だがいつの間にか不動の元へ来ていたのだ。

「お前は心配しなくたって何ともねぇよ。それより早く鬼道のとこ行け。じゃねぇと」


(俺が期待するだろ?)


「鬼道は音無さんが看てるから大丈夫だ。それより何であんなことしたんだよ」

「あんなこと…?」

「以前のお前ならあんなプレーしなかった」

「ああ、あれか」

「危ないだろ?大怪我だったら試合だって出られなかったんだぞ」

「あのな、俺はそんなやわじゃねぇの」


佐久間は心配をよそに、あのくらいでくたばったりしねぇよ、と不動は答えた。

折角佐久間が来てくれたのだからもう少し喜びたい気持ちはある。だがまだあのことがあったばかりだし、何より佐久間の幸せを願いたいと思っているのだからまた自分の中でエゴが出てしまうのが嫌だった。


「だから俺の心配は要らねぇぜ?お前はさっさと――」

「不動のバカ!!」

部屋に響くような声。不動は思わず口を噤んだ。
すると、佐久間の目からはポロッと涙が溢れた。

「心配……したんだぞ?」

「悪ぃ」

「バカだよ…本当にバカ…」

(また泣かせちまった…)

いつも笑っていて欲しい。そう願っていたはずなのに今度は自分が心配掛けてしまった。

「悪かった。だからもう泣くな」

「ん……」

ポンポンと頭を撫でてやると、子供扱いされたのが嫌なのか、少し拗ねたようにして不動を見た。
そんな彼はやっぱり愛しくてつい顔が緩む。

「俺さ、お前に会えてすげー変われたと思う」

「不動が?」

「ああ。勿論鬼道たちの影響もある。けどな、お前と一緒にいるようになって…その…あれだ、色々学んだ訳だ」

「何だ色々って」

「さあ…」

「えー…」

(俺のキャラじゃねぇからな)

恋をする大切さや仲間の尊さ。そんな照れ臭いこと不動には言えない。

「まぁ兎に角俺はお前に感謝してる訳だ。役に立つしな」

「褒めてんだか貶してるんだか…素直じゃないなお前も」

「今日始まったことじゃねぇだろ?」

そう言って不動は笑った。佐久間もそれにつられてクスッと笑ってしまった。

すると不動は佐久間の顔を指差して、

「その顔」

、と言った。

「え?」

「お前はその顔が一番似合ってるぜ?」

「な、何言ってんだよっ…」

顔がつい赤くなってしまう。佐久間はそれを隠そうと救急箱を開けた。

「ほら、バカなこと言ってないで手当てするぞ」

そう言ったが、不動はそれを拒んだ。

「後で自分でやっとくから。お前はもう戻れ。いきなりいなくなったらみんな心配するぜ?」

本当は勿論手当てしてもらいたいところなのだが、今触れられたら何か仕出かしそうな気がして止めておいた。


「分かった。お大事にな」

今度は素直に納得し、佐久間は部屋を出た。

「駄目だよな…俺」

佐久間が出ていった部屋で、溜め息を吐いた。

「諦めなきゃならねーのに…」


また期待してしまうなんて


――――――




どうやって部屋まで戻ったか正直覚えていない。

ただ不動に部屋に戻るよう言われ、ほっとしたのは事実だ。
もしあの部屋にいたら何を言い出したか分からない。

(俺は……)

ダークエンジェルと戦っていた時に感じた気持ちが明白になっていく。

(不動の事が…好きなのか?)


ちょっと前まで有り得ないと思っていた。
不動は友人として好きなのであり恋愛対象なのは鬼道だったはずだ。

それなのに――


勿論鬼道が好きでなくなった訳ではない。
あれからよく二人で話し合ってお互いに誤解していたのも解けた。


ただその切っ掛けを作ってくれたのは――

本当に苦しくて辛かった時、傍にいてくれたのは――


(不動だ…)


本当は自分を救ってくれたあの日から、既に彼に惹かれていたのではないだろうか。

そう思えば思うほど否定できない自分がいた。

しかしそれは鬼道を裏切る事にもなる
佐久間の中ではそうなってしまっていた。

鬼道は好き。でも不動の事が気になって仕方がない


(どうすればいいんだよ…)

頭の中がぐちゃぐちゃになって、自分でもよく分からないが泣けてきた。

(俺、こんなに泣き虫だったっけ?)


何回目だよと呆れつつも混乱が治まることはなく、佐久間は突発的に携帯電話を取り、電話を掛けた。




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