真実と秘密



「どうしてこうなったんだろう」




そう言って佐久間は少し自嘲気味に笑った。


「自分でもよく分からないんだ。今は何も辛いことなんかないはずなのにこんな事して」


「なぁ、いつからおかしくなったんだよ」


「それも分からない…。ただここを切るようになったのは影山が死んだ頃だったかな…」


(随分前じゃねぇか)


影山の死が余程ショックだったのかもしれない。不動はそう思った。


「俺さ、鬼道が好きで鬼道を支えられたらって帝国にいた頃からずっと思ってた」


佐久間の『好き』という単語に不動は胸が痛んだ。


「でもさ…鬼道は俺の事なんか、なんとも思ってなくて……今の鬼道には円堂や豪炎寺がいて」


言葉が詰まっていく。不動は途中で余計な事を言わないように口を噤んでいた。


「今まで…鬼道の為にも頑張ろうって…思ってだけど、やっぱり俺は使えなくて…」


結局何の役にも立てなかった。最後にそう言って佐久間は声を上げて泣き出した。

不動はそんな佐久間を力強く抱き締めた。


「ごめん……」


すべて分かってしまった不動は謝るしかなかった。

佐久間がここまで壊れたのは影山が死んだからではないから。ずっと前から押さえに押さえていた感情がとうとう爆発してしまったのだ。






『使えない』


この言葉がずっと彼の中でコンプレックスになり続け、ずっと彼自身を苦しめていた。
そしてこの言葉を佐久間に言ったのは――――




使えない、役立たず。必殺技がなかなか完成しない佐久間に不動は毎日のようにそう罵倒した。しかし佐久間はそれでも何も言わず黙々と練習に励んだ。
自分の身体を犠牲にしてまで勝とうとするなんて馬鹿な奴だと不動は内心思っていたが、所詮利用するだけだしと気にしなかった。

だが、佐久間はただ勝ちたかっただけではなかった。


鬼道に強くなった自分を見せたかった。今度こそ必要とされたかった。

佐久間には人並み以上に自分の必要性に執着があった。
確かに中学生という難しい年頃にはそういったことで悩んだり拘ったりすることはある。
だが佐久間の場合はそれがあまりにも異常だった。
源田も同じように引き抜いたが、明らかに二人には大きな差があった。

佐久間は勝ちたいという思いよりも、寧ろ必要とされたいという思いに突き動かされていたように思える。

何故そこまでそんなことに執着するのか、不動は知らない。
この事に関しては鬼道も帝国の人間も、誰一人知らない。




そして、そんな佐久間を傷付けたのは他でもない。不動だ。

不動は自分の言った言葉に激しく後悔した。己のしたことがどれだけ佐久間を苦しめていたか、今まで気がつかなかった。

もう終わった事。そう思っていた自分がいたから。

だがそんなのは自己満足でしかなくて…

佐久間の心の傷は癒えてなんかいなかった――――



「ごめん…………ごめんな、佐久間」


別に許してもらわなくても良かった。ただ佐久間が元気になってくれさえすればそれで構わない。だがそれが出来るのは鬼道しかいなくて、不動は己の罪を謝る事しか出来なかった。

やがて、泣き疲れたのか佐久間がそのまま眠ってしまったので佐久間をベッドまで運んで寝かせてやった。
不動は眠っている佐久間を起こさないように眺めていた。



(こんな思いまでして…まだお前は鬼道クンが好きなのか?)



泣きはらしたせいで佐久間の目元は真っ赤だった。



(もうやめろよ、お前苦しんでばっかじゃん…)


不動は目の前にいるにも関わらず、何も出来ない自分に歯痒さを覚えた。


「なぁ、俺じゃ駄目なのか?俺ならお前に辛い思いなんかさせねぇぜ?」


精神的に疲れていたせいだろう。佐久間は何も言わず、ただ規則的な寝息を立てて眠っている。


不動はそんな佐久間の顔にそっと触れた。
すると寝言なのか、佐久間は小さく声を漏らした。



「ん……き、ど…う」



不動はズキッと胸が締め付けられるような痛みに襲われた。
やはり佐久間は鬼道の事が――――。

不動は再び佐久間の頬を優しく撫で、己の顔を近づけた。


「卑怯だなんて言うなよ?」

そんなの自分が一番知っているのだから…

不動はそのまま佐久間の唇に己の唇を重ねた。

寝ている佐久間にこんな事するのは最低だ。
でもこの想いは止められない。


「好きだ…佐久間」



鬼道、悪いな。

こんなの正々堂々じゃない。




それでも…

今だけは許してくれ






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