絶望 練習の時間になり、佐久間はできるだけ円堂や豪炎寺と関わらないようにしていた。顔を会わせれば嫌でも夢に出てきてしまうから。更に鬼道は最近その二人といるので関わらないに越したことはないのだ。 佐久間が風丸と練習をしていると、佐久間のところにボールが転がってきた。 「悪い佐久間!」 声のする方を見ると円堂と鬼道と豪炎寺がいた。どうやら誤ってボールを佐久間がいる方に蹴ってしまったらしい。 「練習邪魔して悪かったな」 円堂が申し訳なさそうに詫びる。その純粋な顔に佐久間は思わず目を逸らした。 「いや、別に」 「久しぶりにイナズマブレイクやったから息が合わなくてさ」 「いや、今は失敗したがすぐに体が思い出すさ」 「もう一度やろう」 そんな話を楽しげにする三人を見ていると嫌悪感すら感じた。円堂と豪炎寺は何も悪くない、そう分かっていてもこの気持ちは収まらない。 (お前らはこうやって俺から鬼道を奪っていったんだ……。) 「佐久間大丈夫か?」 円堂の声にハッとする。 「俺はなんともないけど」 「いや、だって手首んとこずっと引っ掻いてるから」 その言葉に驚いて手を見ると無意識に昨日切った場所に爪をたてていたようで、血が少し滲んでいた。佐久間は慌てて手を後ろに回す。 「そんなことしたら痛いだろ?今手当てしてもらおうぜ」 「大した事ないからいい」 「遠慮すんなって、マネジャーのとこいって救急箱借りにいこう」 そう言って円堂が佐久間の腕を掴んだ時だった。 「やめろ!!!!」 佐久間はそう叫んで思いきり円堂の手を振り払った。一瞬の出来事に何が起こったのか分からず円堂は唖然としていた。 「佐、久……間?」 佐久間は自分がしたことに気付き、 「ごめん…」 とだけ言ってグラウンドを去った。 ――――――― 「さっきはごめんな」 円堂はいきなり腕を掴んだのがまずかったと思い、就寝前に佐久間に謝った。 「俺の方こそすまなかった」 佐久間も再び謝る。流石にこれは悪かったと反省している。だがやはり円堂とは関わりたくなかった。何度も謝る円堂に気にしてないと返して自室に戻った。 ベッドに横たわると練習中の出来事が頭を駆け巡り、憎悪や嫉妬で気が狂いそうだった。 円堂は悪くない、豪炎寺も悪くない。一緒に戦ってきた仲間なのに、鬼道を何度も助けてくれた最高な奴らなのに… 忌々しい……… 円堂が憎い。豪炎寺が憎い。そして何よりこんな自分が憎い。 佐久間は再びカッターを手首に当てた。 (もうしないって決めただろ?) 僅かに残る理性が働く。しかしそれは容易く掻き消されてしまった。 (俺は罰を受けなきゃいけないんだ) 持っていたカッターが震える。 (あの時、帝国に戻ってきてほしいって素直に言えば良かったんだ。それすらも出来ないくせに二人を憎んだりして…それなら鬼道に見捨てられて当然じゃないか) 気がついたら既に切っていたようで血がツーッと肌を伝う。それをボンヤリと眺めていると涙が溢れ落ちた。 (俺はなんのために此処にいるんだ?なんのためにここまで頑張ってたんだ?) 答のない質問を繰り返す。 「誰が俺を必要としてくれる?」 カッターを持っていた手にはより力が入る。そして深い箇所まで刃が入ったが不思議と痛みは感じなかった。 暫く上の空だったが、気持ちを落ち着かせ、眠りについた。 起きた時、真っ先に目に入るのは切った痕。 見るだけで気が滅入る。 それでも手首を切った事を知られないように明るく振る舞った。こればかりは絶対に知られたくない。 自傷行為をする奴なんて気味が悪くて誰も近寄らないんじゃないか、そんな考えが浮かぶ。佐久間が以前手首を切った事は鬼道も知らない。だからこそ今この事を知られたら…… (何でこんなにも弱いんだ) 佐久間は自分が嫌いだ。弱くて何の役にもたたない自分にいつだって嫌気が差していた。 何度自分の無能さを呪っただろう、何度必要とされる事を望んだだろう。 しかし望みは叶わぬまま… 「佐久間!もうミーティング始まるぞ。いつまでも寝てんじゃねぇ!!」 ガチャという音とともに誰がが入ってきた。 「不動……?」 「佐久間、お前何やってんだよ!」 不動は佐久間の様子に気付き慌てて駆け寄り、腕を掴む。 佐久間はただ俯いているしかなかった。 |