脅威



再び心に蘇った感情は治まるどころかますます膨れあがり、佐久間を苦しめた。


夜眠ると、鬼道が雷門中や、キャラバンのメンバーと笑いあっている光景が浮かび、それを思い出すだけで吐き気がする。練習中は他のメンバーを見ても、まだ冷静さを保っていられた。だが、夜になると今まで胸の内に秘めていたものが爆発する。それをなんとか抑えているうちに完全に眠れなくなっていた。



体調がどうであろうと練習はある。ハードな練習は、ここ何日もろくに寝てない身体には相当な負担がかかっていた。普段なら突破できる場面でもボールを取られてしまったり、シュートも全然きまらない。そこへ不動がやって来た。



「お前大丈夫か?ここ最近ずっとこんな感じじゃんかよ」


「別になんともない」


「そんな具合悪そうなのになんともないわけねーだろ」


「本当に大丈夫だから」



佐久間はそう言っていつものように笑って見せた。しかしその瞬間倒れてしまった。








――――――――。






気が付くとベッドで寝ていて、周りには不動と久遠監督とマネージャーの木野がいた。


「あ、佐久間君気がついた?」


「ああ。心配かけたな。でも大丈夫だ。」


「ったく散々世話焼かせておいてどこが大丈夫なんだよ」


「………ごめん。」


「不動君がここまで運んできてくれたのよ」


「そうだったのか。ありがとな、不動」


「別に大したことしてねえよ」


そう言ってそっぽを向いた不動の顔は真っ赤だった。


「まだみんな練習してるのか?」


「うん」


「それなら俺も早く練習に戻らないとな」




そう言ったときだった。



「佐久間、お前は練習に参加させない」


久遠監督がきっぱりと言った。


「大したことないんで練習は出れます」


「そういう意味じゃない。お前、最近ちゃんと睡眠をとってないだろ。練習見ていたらすぐわかる」


「……………。」


佐久間は何も言えずに黙るしかなかった。


「体調管理もまともにできないやつに練習に出る資格はない。不動、木野はグラウンドに戻れ。」







―――――――――――








結局その日は練習に出れず、円堂や豪炎寺たちにも心配されが大丈夫だと答えて自室に戻った。

確かに練習に出られなかったのは佐久間自身のせいだ。けれど自分ではどうすることもできないし、周りにも心配をかけたくなかった。それに源田たちにもこんなことで電話したくなかった。

そうこう考えているうちに就寝時間になる。

身体は疲労で悲鳴をあげているのに眠れない。でも練習に参加したいという焦る気持ちが募る。佐久間は以前も一度こんな症状に悩まされたことがあった。だから対処法を知っているといえば知っている。薬も使わない簡単な方法を……


(二度としないって決めたのに)


佐久間はバッグからカッターナイフを取り出し、手首にそっと刃をあて、そしてゆっくりと切っていく。
すると自然と心が落ち着いてきて、佐久間は止血をしたあとそのまま眠りについた。





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