恩師



オルフェウスとの試合は引き分けに終わった。決勝に進めるかは際どくなってしまったが、何より影山が改心することのできた大切な試合になった。
影山は警察に行くことになり、スタジアムを後にする。


「総帥……」


鬼道は影山の背中を見送りながらポツリと呟く。


「何思い出に浸ってんだよ!最後に挨拶くらいしろ。お前もだ佐久間」


不動はそう言って佐久間と鬼道の腕を引っ張りスタジアムを出る。二流と言われっぱなしじゃ納得出来ないのだ。鬼道は先程既に話をしたが取り合えず着いていった。


「影山!!」


その声に反応して影山と警官が三人の方を見る。鬼道は警官に話す時間が欲しいと頼み、五分だけ時間をもらった。



「どうした」


「どうしたじゃねぇよ。お前に言いたい事があるんだ」


「不動が私にか?」


「ああ。俺と佐久間はもう二流なんかじゃねぇって事を言いにきたんだよ」


佐久間は自分の名前が出て少し驚いた。まさか不動がわざわざ他人の事まで言うなんて思ってもなかったのだ。そして影山も同じ事を思った。


「なんだそんな事か。今日やチームKとの試合でお前たちのプレーを見てお前たちには私自身驚いたくらいだ。不動も佐久間もよくここまで成長したな」


「もう二流じゃねえって事か?」


「そうだ」


その言葉を聞いて、まぁ当たり前だよなと不動は言ったが内心はやはり嬉しかった。佐久間も同じ気持ちになった。


「そろそろ時間だ」


警察がそう言うと影山は鬼道と佐久間と幾つか言葉を交わし、最後に不動の耳元で何かを囁いた。不動は顔を真っ赤にして怒った。


「バカ言ってんじゃねぇよ!!」


「私は馬鹿ではない。では、三人共元気で」


影山は少し笑いながら去っていった。


「影山行っちゃったな」


佐久間は寂しそうに言った。


「でもあの人は罪を償い、そしてまた俺達の前に表れる。俺はそう思うな」


「鬼道……」


「そうだ、不動はさっき総帥になんて言われたんだ?」


「い、いや別に大したことじゃねーから!」


「大したことないようには見えないな」


佐久間と鬼道は教えてくれと不動に言ったが


「ぜってー言わねえ!!」


と言ってさっさと先にメンバーの元へ行ってしまった。


「なんだったんだろうな。気になるよな〜鬼道」


佐久間は色々予想をたてていたが、鬼道はそんな佐久間を横目で見ながら絶対分からないぞと心の中で呟いた。だって影山は佐久間の事を言ったから。不動があれだけ動揺するのは佐久間の事くらいなのだ。


「鬼道は分かったか?」


「いや、分からないな」


それでも鬼道は言わないに越したことはないと判断し、知らないフリをしておく事にした。




―――――――





「佐久間に惚れるとはお前も変わったものだな」



別れ際、影山はそう言った。どこでバレたのかは分からないが、佐久間本人がいるのにあんなこと言うなよと文句も言えないあの人を思い返しながら不動はため息をついた。


「不動!!」


すると佐久間と鬼道の声がした。


「先行くなよ。俺は不動が言われた事を予想してたんだが当たらない。教えろよ」


「教えねぇって」


「いいじゃん別に。すごい気になる」


「俺も気になるな」


不動が言わない事を分かってる鬼道は面白がってわざと聞く。


「言わねえって言ってんだろ。って鬼道クン何にやけてんだよ全くどいつもこいつも…」


不動は再びため息をつき、鬼道と佐久間はそれが何故かおかしくなり笑ってしまった。不動も笑うなとは言うものの、こんな光景も悪くないななんて思っていた。


影山に出会い、騙され、重症を負わされ、コンプレックスを持った。
それでも出会わなければ笑い合う楽しさも、仲間を思う大切さも、恋をする暖かさも知ることはなかった。


恨んで憎んで許さないって思っていたけれど、最後はやっぱりこう言いたい。



「ありがとうございました」




三人は影山の出所を一日でも早く望んだ。








ところが


翌日の朝、テレビを観た三人は愕然とした。



「オルフェウスの監督のミスターKが交通事故で亡くなりました」




「「「影山が死んだ!?」」」




ありがとうは言えなかった




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