羨望



「不動!佐久間!」


二人は鬼道とフィディオと合流することができた。どうやら鬼道たちも二人を探していたようだ。


そして今日はイタリア代表が使っている宿舎に泊まらせてもらうことにした。佐久間は空いていた部屋で眠っている。鬼道と不動はフィディオの部屋で先程の出来事を話し合っていた。


「佐久間は大丈夫なのか?」


「ああ。今は流石に色々あったから眠ってるけどちゃんと休めば問題ないと思うぜ。それより鬼道クンはどうなんだよ」


「俺は………」


鬼道はあれから影山と話を続けたらしいが、ますます呪縛にかかったらしく、影山に電話がきて話が中断されなかったらどうなってたか分からなかったみたいだ。


「鬼道クンさぁ、もう過去の事なんて忘れちまえよ」


「それができないから困ってるんだろ」


そう言って鬼道は深くため息をついた。するとノック音がしたのでドアを開けると佐久間がいた。


「佐久間、休んでなくていいのか?」


「もう大丈夫だ。それより心配かけてすまなかったな」


「お前が無事で何よりだ」


佐久間にも今の状況を話していると、ミーティングに行っていたフィディオが戻ってきた。


「あ、佐久間もここにいたんだ。俺はフィディオ、よろしくな」


「よろしく…」


「そうだ、申し訳ないんだけど今空いてる部屋探したらさっき佐久間が寝てた部屋を合わせて二部屋しかないんだ」


「つまり?」


「誰か相部屋でも構わない人はいないか?」


「俺は構わないぞ」


「俺も別に」


「俺も大丈夫だ」


鬼道が名乗り出ると佐久間も不動も問題ないと言った。佐久間は本当に平気だから言ったのだが、後の二人については下心があるのが分かりきっていた。
鬼道も不動も思春期の男の子だから仕方ないのかもしれない。


「鬼道クンは金持ちだから狭いの嫌だろ?だから一人で寝ろよ」


「不動こそぼっちのくせに誰かと寝るのか?」


「それはそれ、これはこれだろ。まさか鬼道クン一人で眠れないとか」


「そんな事ないぞ。俺は親友の不動クンに一人部屋を譲ってあげようと思っただけだ」


「あー良い友達をもって幸せだな」


無駄に殺気だった二人の会話を聞いていて、佐久間は遠慮がちに言った。


「二人が相部屋好きなら俺が一人で寝るよ」


「「それは駄目だ!」」


このままでは埒が空かないので、じゃんけんで決めることにした。


(日本人はたかが部屋割りの事でいちいちじゃんけんするんだ…)

事情がさっぱり分からないフィディオにとっては理解できなかった。この2人のせいでそして日本人を完全に誤解されてしまったのは言うまでもない。



「勝った奴が一人部屋でいいよな」


「ああ、それでいい」





―――――




結果は佐久間の一人勝ちだった。


「じゃあ二人は相部屋でよろしく。明日は試合があるから早く寝よう、おやすみ」


「おやすみ〜」


佐久間はさっさと部屋に戻ってしまった。不動と鬼道もいつまでもフィディオの部屋に居る訳にもいかないので部屋に向かった。




―――――









「なんでお前となんだ!」


「それはこっちの台詞だぜ。なんで俺が鬼道クンなんかと一緒に寝なきゃなんねぇんだよ!」


だが、この分かれ方が一番安心できるということは二人とも分かっていた。


「じゃあ寝るからな。おやすみ」


鬼道はそう言って当然のようにベッドに横になっていた。


「おい、なんでお前がそっちで寝てんだよ。床で寝ろ」


「先程佐久間をお姫様抱っこした奴はどこの誰だ」


「……じゃあよぉ、佐久間助けないで影山の呪縛にかかった奴は誰だ?」


「…………。」


「鬼道クン?」


絶対何か言い返してくると思ったが、返事がない。顔を覗くと眠っていた。


(調子のいいとこで寝んなよ…)


結局不動は床で寝るはめになった。


「鬼道クン…本当に寝たのか?」


再び問いかけたが返事はない。


「いいよな、お前は。そうやって何も知らない間にアイツに尽くしてもらえるんだからよ」


あれだけ危険な目にあって怖くて仕方がなかったはずなのに、佐久間は影山に囚われた鬼道を心配した。佐久間の目には鬼道しか写っていないし、心の中には鬼道しかいない。不動に入る余地なんかどこにもないのだ。


(なんで鬼道クンなんだよ…)


不動がこんなにも他人を羨ましく思うのは初めてだった。そして報われない想いを抱き続けるのがここまで苦しいものだということも初めて知った。






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