新たな敵



不動は一人でグラウンド周辺を探し回っていた。だがなかなか見つからず、探す場所も少なくなり残るところは人気のない宿舎の裏側のみとなった。すると話し声が聞こえ、不動は見つからないように声がする方を見た。


(佐久間!)


思わず声を上げてしまいそうになったのを抑える。下手に現れて佐久間を人質にでも捕られたらそれこそ失敗だ。しかしこっそり様子を見ていたら、佐久間が普通ではないことに気がついた。目は虚ろで、デモーニオが髪や顔に触れてもろくに抵抗もしない。クスリの類いでも使われたのだろうと思った。そして不動は、鬼道と名乗りながら馴れ馴れしく佐久間に触れるデモーニオを叩きのめす機会を伺っていた。


しかし、デモーニオはそっと佐久間に顔を近づけたのだ。


(アイツ!)


流石にキスまでされては堪ったものじゃない。


「てめぇなにやってんだよ!」


不動は勢いよく飛び出した。急に現れた不動に驚き、デモーニオは佐久間を離してしまい、佐久間はクスリが抜けていないのか再び眠ってしまった。


「また貴様か。覗きとは随分悪趣味だな」


「馬鹿、覗きなんかじゃねえよ!てめぇよくも佐久間を拐ってくれたな」


「佐久間を真帝国に転入させて重症を負わせた貴様がなにを偉そうに」


「俺の事を知ってるのか!?」


「ああ。総帥が手掛けたチームのデータは皆把握しているからな。だから貴様が過去に何をしたかも俺は知っている。それなのに今さら佐久間のヒーロー気取りか?笑わせるな」


不動はデモーニオの言葉に何も言い返せなかった。
確かに彼の言う通りである。
佐久間をあれだけ傷つけておいて今になって好きになってしまった。
それはやはり都合のいい話なのだろうか。
不動は佐久間を好きになってはいけなかったのだろうか。


――それは今この場で答えの出る問題ではない。下手したら一生かかっても分からない。
けれど、それならこの瞬間は自分の気持ちに素直でいいじゃないか、そう不動は思った。




「確かに佐久間には償っても償いきれねぇと思う。けどな、好きな奴が危険な目にあってたら黙ってられる訳ねぇだろ!」


「だがな、コイツはお前の事なんて眼中にないんだぜ」


「んなこと自分が一番分かってんだよ。でも一番じゃないってだけで諦められる程俺の気持ちは軽くねぇ」



そう言いきった不動に言えることはなかった。デモーニオはそんな不動を見て不敵に笑い、明日の試合を楽しみにしてると告げ、去ろうとした。


「楽しみってなんで俺たちが助っ人すること知ってんだよ」


「全ては計算通りだからな。明日、俺たちがお前らを潰し今度こそ佐久間を手に入れる」


最後にそう言い残し姿を消した。






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