心の闇



毎日厳しい練習はあるものの、充実した日々が続いていた。そして次の試合であるアルゼンチン戦も、もう間近に控えたそんなある日……。



「佐久間、明日の朝時間あるか?」


「朝?」


「ああ。良かったら一緒に練習したいと思ってな」



佐久間には思ってもみないお誘いだった。断る理由などあるはずがない。

佐久間は喜んで誘いを受けた。



そして次の日の朝、佐久間と鬼道は日本エリア内にある、広場で練習をした。
すると鬼道が意外な事を言った。


「佐久間、ツインブーストをやろう」


ツインブーストは今となっては懐かしい技で、世界大会に使うようなものではないはずだ。それなのに何故今やるのか、そう不思議に思ったが、佐久間にとっては大事な思い出の技にもなっていたのでやることにした。


「「ツインブースト!!」」


久しぶりだったのに完璧なできで、鬼道とハイタッチまでできて嬉しいはずだった。だが、佐久間は心から喜べない。


(これは俺と鬼道の技だったのに)



昔の暗い過去が蘇る。



鬼道は世宇子に勝つために帝国の必殺技を雷門に伝授した。それは勝つためには仕方ないことだったのかもしれない。けれど、帝国のみんなと必死になって完成させた技を勝手に使われて喜べるわけがない。雷門が帝国の必殺技を使う度に佐久間がどんなに辛い思いをしたか。それは誰にも分からないことだった。

そして今、鬼道の必殺技は雷門に転入してから取得したものが大半を占めている。


(鬼道のパートナーは俺だけだったのに…)


心が醜い感情に犯されていく。


「…………佐久間?」


鬼道が心配そうに佐久間を見る。


「大丈夫か?あまり顔色が良くないぞ」


「いや、何でもない。」


佐久間は胸の内を見透かされないように小さく笑った。だが心の中の醜い感情は消えなかった。


鬼道は佐久間の体調を考慮して練習をやめた。



「今日はすまなかった。無理をさせてしまったようだな」


「心配するな。本当に大丈夫だから」


帰り道、佐久間は再び呼び起こされたこの感情を必死に理性で押さえつけた。自分の中では忘れたと思っていた。だが今まで眠っていた感情は爆発寸前だった。そんな佐久間を心配そうに見る。


「佐久間?」


「鬼道………またお前と一緒のチームで戦えて嬉しいよ」


今の佐久間が言える精一杯の本音。心の中では別の気持ちが溢れ出る。


(本当は俺なんか必要ないんだろ?こんな奴が恋人だったなんて、とでも思ってんだろ)


(違う!鬼道はそんなこと一言も言ってない)


(どうだか。あいつは所詮俺の本当の気持ちも知らないで雷門に行った奴だ。『佐久間次郎』の存在なんてあいつにはどうでもいいんだよ)


心の中でそんな葛藤をしながら鬼道に怪しまれないように話しを続ける。すると鬼道の足が止まり、その目線の先には不動がいた。


「不動……?奴がどうかしたのか?」


「いや、その向こうだ」


鬼道の目線の先を再び見ると影山の姿があった。


「影山………」


諸悪の根源を見つけた








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