秋の催し物 不動が転入してから随分の日数が経ち、彼のいる生活が当たり前になってきた今日この頃。 不動はいつものように帰りのHRが終われば部活だと、張り切っていたところだった。 すると担任教師が 「みんなもうすぐ文化祭があるな。そろそろ準備をしなければならないぞ」 そう言ったことにより、教室は騒がしくなる。 「この学校文化祭あるのかよ」 「えっ?普通ないのか?」 「ない」 「うわーマジかよ。つまらなくないか」 後で源田がカルチャーショックを受けていた。 佐久間も同じように驚いている。 「俺の方こそ意外だ。中学でそんなものやらねぇからな」 確かに大抵の公立学校では文化祭はやらない。 それは中学生では出せる店が限られてしまったり学校自体の金銭的な面も関係しているからであろう。 しかしここは帝国学園。 私立であるし、普通の学校ではない。 皆が考え込んでいると担任教師は 「じゃあ何やりたいか各自考えてこいよ。以上!」 そう言ってHRを終わらせた。 * 「文化祭って何やるんだ?」 部室で不動は佐久間に訪ねた。 「えーっと、基本何しても大丈夫なんだ。模擬店とかお化け屋敷とか。だから普通の文化祭だよ」 「なんだ、結構普通じゃねぇか」 「当たり前じゃん。普通だよ普通」 文化祭当日、不動は帝国学園の普通は普通ではないということを知ることになる。 「後部活でも色々やるからな」 辺見が会話に交ざる。 「じゃあサッカー部もなんかやるのか?」 「まぁな。詳しくはミーティングで決めるから。そんとき説明する。因みにサッカー部の文化祭委員は俺だからな」 辺見は任せろと言わんばかりにそう言った。 * 「今日のミーティングは文化祭の事を決めます。じゃあ辺見よろしく」 「了解。…サッカー部は昨年同様に、グラウンドで小学生たちに指導や必殺技を見せたりする。そこで優秀そうな奴は声を掛ける」 「あ、僕そこで声掛けられた。咲山先輩に」 「俺はデコ見に声掛けられた」 洞面と成神は口々に言った。 「おい成神、後で覚えておけよ……で、それはいいんだが、実行委員会の方でサッカー部が宣伝だけではずるいってことになってな」 「確かに…」 「でも部活紹介は学園直々にやれって言われてるじゃん」 「まぁサッカー部は帝国の看板みたいなもんだからな」 「お前ら静かにー、それでこの中から三、四人でバンドを組んでライブをやることになった」 「「えー!」」 「一番面倒じゃん!」 「模擬店とか縁日系は!?」 「悪い、俺がくじ引きでライブ引いた…」 「ハゲ!」 「デコ!」 ブーイングが飛び交い、みんな面白がって言っているため収集がつかなくなってきた。 「くじ引きなんだから仕方ねぇだろ!兎に角楽器弾ける奴いないか?俺はベースなら持ってるから」 「あ、俺エレキギター弾けますよ」 「俺、ドラムならできるぞ」 成神と源田が手を挙げた。 「後一人くらい欲しいな、誰か――」 「あのっ――」 佐久間が遠慮がちに手を挙げた。 「あまり上手くないけど俺もエレキギターなら弾ける…」 「マジかよ!」 「じゃあ決まりだ。頑張ろうぜ」 「「おー!」」 さぁ練習練習、と皆解散した。 (あいつら楽器とかあるんだな…) やはり金持ちはすることが違うなと思った。 それにしても佐久間がギター弾けるなんて初耳だ。 ちょっと楽しみでもあったりする。 「不動、早く行こうぜ」 気がつくと佐久間が待っていてくれたようだ。 不動は彼の後を追った。 * 部活の帰り道、今日はミーティングで決まったバンドメンバーと不動で一緒に帰っていた。 成神は曲をどうするかなどを聞いている。どうやら彼は楽しみらしい。 「先輩、どうしますー?」 「お前、楽しそうだな」 「当たり前ですよ不動先輩、俺、音楽も大好きなんですから」 「成神は小学生の時からギターやってるんだよな」 「はい、もしサッカーやってなかったら軽音入ってましたから」 文化祭の時にデコの広い奴に話し掛けられちゃって、そう言って成神はヘラヘラと笑った。 「てめぇ……成神!」 二人がまた追いかけっこを始める。帝国学園サッカー部では不動と佐久間、辺見と成神の追いかけっこは有名だ。 普段自分もやっているのを棚に上げるかのように、二人に呆れた視線を向けつつ不動は佐久間と源田にも訊ねた。 「お前らも小学生からか?」 「ううん、俺と源田と辺見は音楽の授業で」 「ああ、村野先生か」 「おっ、村野とか懐かしいな」 佐久間の話によると、一年前、三人は芸術科目の音楽の授業を取っていた。その時の先生が村野先生という教師で、帝国学園では珍しい『変わり者』だったらしい。 村野先生はクラシックよりもロックやパンク、メタルが好きな先生で、生徒にエレキやベース、ドラムス、キーボード等の楽器を教えていた。 生徒の中には所謂『そっち系』の音楽を禁止されていた者もいて、そんな生徒たちには村野先生の授業は感動的だったそう。 佐久間、源田、辺見も先生の事は気に入っていて、楽器も好きだったのだが、『品のない授業はやめろ』『もっと文化的な音楽を教えろ』、などと保護者からの苦情が殺到、流石に帝国学園も村野先生を追放した。 「……帝国にも色々変な奴がいるんだな」 「まあな……」 「ここは校風も古いし規律や世間体に煩いんですよ。音楽に偏見持ってる親は多いんじゃないですか?別に音楽に上品も下品もないのに」 「でも俺、あの授業好きだったなー、先生いなくなった後も楽器はリハビリで使ってた」 「俺も、サッカー出来なくて辛い時期だったからさ、ちょっとでも音楽出来たのはすごく支えになったよ」 佐久間のリハビリという言葉に不動は少しドキッとした。 別に佐久間達が不動を責める言葉として言っている訳ではない。そんなことは不動にだって分かっている。 それでも 自分が犯した罪に対する罪悪感は時に現れては不動を苦しめていた。 「不動?聞いてるか」 「あ、悪い……なんだ?」 佐久間の声に我に返る。少し心配そうな顔をしていたが特に本音を悟られずにはすんだようだった。 大丈夫、佐久間も源田もこうして毎日元気にサッカーをしている。怪我は治ったんだ。 己にそう言い聞かせ、ざわつく心の中を落ち着かせた。 ←→ |