キャプテンと司令塔



長ったらしい授業も漸く終わり、皆帰る準備をし始める。

佐久間や源田は部活があるのでその準備をする。

「不動、お前は勿論サッカー部に入るんだよな?」

「当たりめーだろ」

「じゃあまずは入部届けもらわなくちゃ。源田、悪いけど先に行ってみんなを集めてくれないか?」

「分かった」

「じゃあ行こうぜ」




――――

広い帝国学園の校舎を一緒に歩いているのが不動だと思うと不思議な気持ちになった。

それでも佐久間は彼がこの学園に来てくれて嬉しくて仕方ないのだ。


「ここが職員室。因みに顧問は安西先生」

「誰だ?」

「えーっと…あ、いたいた。安西先生」

佐久間が名前を呼ぶとビクッと体を震わせ彼を見る。

どうみても佐久間に怯えているようにしか見えなかった。

「多分知っていると思いますが転校生の不動です。サッカー入るんで入部届けください」


安西先生はただただ佐久間の言うことに従い、頷くだけ。

全く、上下関係の厳しい帝国学園には信じられない光景である。


入部届けをその場で書き、二人は職員室を出た。

「保護者印を押したら再提出だからな」

「分かった。…なぁ佐久間」

「ん?」

「安西って本当に顧問なのかよ」

「そうだけど…」

「いや、帝国の顧問だからすげー奴だとてっきり」

「あぁ、だよな。前は影山だったんだけど、顧問やりたい人が見つからなくて脅し半分で安西先生にやらせてる」


佐久間はいたずらっ子のように笑った。
不動は安西先生の気の毒さに苦笑いだったが、佐久間に怯えていた理由がこれでよく分かった。


「ただ…指導者がいないのは辛いよな」

「バーカ、俺がいるだろ?それにお前だっている。足りないものなんかねぇよ」

「…そうだな。俺たちで帝国を強くしていこうぜ」


佐久間の生き生きとした笑顔は久し振りに見た。
それは不動にとって、やっぱり自分は佐久間が好きなんだと再確認させられるものでもある。

そう、不動は諦めないからこそここにいるのだ。


――――


グラウンドに皆集合していて、二人が来れば忽ち騒がしくなった。


「佐久間お帰りー!!」

「不動が来たって本当だったのかよ!よろしくな」

「二人ともお疲れ〜」


ただ、不動を非難する者は誰一人としていない。返ってそれに驚いている不動に佐久間はそっと耳打ちした。

「多分源田がみんなを説得したのかもしれない」

「源田がか!?」

「うん、源田はそういう奴だから」


あれだけ酷い事をしたのにも関わらず、源田も佐久間も、そしてここにいるサッカー部のメンバーも不動を受け入れてくれた。

それはずっと罪悪感を抱えていた彼にとっては有り難いこの上ない。


「まぁ取りあえずはミーティングだ。今日はここでやるか」

辺見が仕切るように皆を纏める。

「まずは佐久間。今までお疲れ様。お前、すげー強くなったな。これからはまたよろしく」

「ああ。俺の方こそ、応援してくれてありがとう」

「次に不動。お前もお疲れ様。そしてようこそ帝国学園サッカー部に」


すると一斉に拍手が起き、皆は歓迎の気持ちを見せた。

そして辺見は腕に付けていたキャプテンマークを外した。

「ほらよ。今日からはお前がキャプテンだ、佐久間」

「俺!?」

佐久間は突然のことに慌ててしまった。

「いや…俺はキャプテンとか無理」

「って言ってもずっと俺でいるわけにもいかないだろ」


佐久間がいない間は辺見キャプテンのもとで帝国学園のサッカー部は活動していた。そして十番の背番号も辺見のものだった。

それは佐久間と源田が望んだこと。

いつも一番にこのサッカー部を考えていたのは辺見だから。
どんなときもこのチームから離れず、皆のメンタルに気を遣っていたのも辺見だった。

だから今までずっと彼にキャプテンを任せていたのだ。




「お前だってこのチームの事を考えているだろ?」

「でもわざわざ俺がやらなくたって源田や寺門だっているし―――」


佐久間がメンバーを見渡すように見ながら話しているとふと言葉が止まった。


「そうだ!!不動、お前がキャプテンやれよ」

「はぁ!?俺かよ!!」

「だって不動はキャプテンの経験もあるし実力もある。ならいいじゃん」

佐久間は、はい、と不動にキャプテンマークを渡した。

帝国学園サッカー部の一軍のキャプテンという名誉的な肩書きが、何故かたらい回し状態になっていたなんてここにいるメンバー以外は誰も想像すらつかないであろう。


そして不動も断った。


「あのさぁ、俺は今日入って来たばかりだぜ?それにお前がやりたいのは司令塔。チームを引っ張るキャプテンとは似ているけど違う。だから――」


不動はキャプテンマークを佐久間に渡し、自分は十番のユニフォームを受け取った。


「俺は司令塔をやる。だからお前は俺の参謀と、このチームのキャプテンをやれ」

『俺の』を強調して言う不動につい照れ臭くなってしまう自分に気がついた佐久間だったが、彼の提案を快く引き受けた。


「分かった。じゃあこれからよろしくお願いします!!」

佐久間がぺこっと頭を下げると再び歓喜の声が上がった。


「頼りにしてるぜ佐久間キャプテン!!」

「なんか恥ずかしいな…」

「何言ってんだよ、お前に着いて行くからな」


ワイワイと騒がしいこのメンバーも好きになれそうで、不動は自然と笑えていた。

「じゃあお前ら握手でもしたらどうだ」


源田が佐久間と不動を促し、二人は向かい合った。

「「……」」


改めてやるとなると恥ずかしいような照れ臭いようなでお互いに黙ってしまった。

「あ…えっと…」

「手、出せよ…」

「うん…」


二人でどっちからでもなく手を出すと、手が触れて同時に手を引っ込めてしまった。

「悪ぃ…」

(俺…何してんだよ…)

「ごめん…」

(どうしよ…)


自分だけが意識してると思っている二人は再び自分から手を出すことができなかった。


(何だあの二人)

(もしかして…)

(もしかすると…)

(やっぱりな)


そういうことに関しては勘の鋭い源田、辺見、成神は勘づいたが、寺門や他のメンバーには分からなかった。

「取りあえず練習するか!!」

「「おぉー!!」」


気まずい雰囲気を打破するように源田の声が響く。


(源田ナイス!!)


不動と佐久間は心の中で感謝して練習にさした。


新しい帝国イレブンも、二人の関係もまだまだこれからだ。





不動がキャプテンも勿論アリだけど、佐久間がキャプテンも何だか新鮮で可愛いと思うのです。



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