転校生



FFIが終わり、選手たちは元の生活に戻る事になった。

勿論それは佐久間にも言える事であり、彼も時差等で崩れ気味だった体調を整え、学校に行く準備を進めていた。

一週間は家でゆっくりとしていたが、早く学校に行きたくて仕方なかった。



そして一週間後




久しぶりに見た帝国学園の校舎はどこか懐かしい気がした。

校門をくぐれば周りの生徒が佐久間に注目している。

元々目立生徒だったしFFIの出場者だから当たり前なのかもしれない。

先生には軽く挨拶を済ませ、佐久間は自分のクラスである2ーAに向かった。


「源田!!」

「佐久間!」


教室に入ると同時に佐久間は源田の名を呼んだ。

そして自席に座っていた彼の前の席…つまり自分の席に座った。


「お疲れ様」

「サンキュ」


二人の会話は、まるでちょっとプリントを提出してきたようなノリだったが、それは佐久間が望んだことでもあった。

はじめは帝国サッカー部で佐久間を祝うはずだったのだが、普通の生活で迎えて欲しいという彼の願いにより、このような形になった。

「なんかこの机懐かしい」

「卒業生じゃないんだから」

「勉強早く追いつかなくちゃな」

「俺は最初から遅れてるけど」

「また補習になるぞ……」

「きっとなんとかなるさ」

「それにしてもやっぱりこのクラスは変わらないな。席替えもないし――」

ふとした拍子に佐久間の隣の席が視界に入る。

「この席…」

「お前が来るまではそのままにしようかと思ってな」

「そっか…ありがとう、源田」

そこはいつか戻って来ることを願ってそのままにしておいた鬼道の席

ただ、もう鬼道はここには帰って来ない。

「そろそろ…片付けないとな」

佐久間はそう言って鬼道の机をそっと撫でた。

「大丈夫か?」

「ああ、心配するな」

「ならいいが…」


自分は鬼道の進む道を応援する。佐久間はそうFFIの最中に決めたから。

それに関しては後悔していない。
鬼道ともよく話し合って、分かり合えた上で思ったことでもあったのだ。


するとチャイムがなり、教室にいた生徒たちは自席に着く。

「じゃあ後で片付けるの手伝ってくれ」

「おう」

休み時間に片付ける事を決め、二人も担任が来るのを待った。


ガラガラ


「「おはようございます」」

「みんな、おはよう。佐久間は今日から登校か。またよろしくな」

「はい」

「今日はみんなにニュースだ」

「「ニュース!?」」

なんだろうと教室が騒がしくなる。

担任はそれを静止させた。

「はいはい静かに。今日はこのクラスに転校生が来ます」


その言葉と同時に教室中が沸いた。
帝国学園のような私立に転校生が来るのは極稀なことであったからだ。

「えーっとじゃあ―――」


入って来なさい、と言う前に転校生は勝手に教室に入ってきた。


「「あーー!!!!!」」

転校生を見た瞬間佐久間と源田は同時に声を上げた。

その転校生は――


「不動明王って言います。まぁよろしく」


「な、何で不動が…」

(てっきり愛媛に帰ったと思っていたのに)



「…みんな仲良くしてくれよ。じゃあ不動の席は…」

「ああ、俺あの席がいい。どうせ誰も使ってねぇんだろ?」

不動はそう言うと図々しくツカツカと教室を歩き、遠慮なく佐久間の隣に座った。


「おい、お前そこは」

「『鬼道クンの席だった席』だろ?」


自信満々に答える不動を見て茫然としてしまった。

一時限目のホームルームは放心状態で終わり、待ちに待った休憩時間がやって来た。


「何で帝国学園に来たんだよ」

「来ちゃ悪いか?」

「そんな事言ってないけど、お前、俺と握手するの拒んだじゃん」

「あれは、だからよく考えてみろ」

「えーっと…」


佐久間はあの日不動に言われた事を思い返す。


不動に握手を拒まれた。


「悪いがそれには応えねぇぜ?」

「何で?」

「分かんねぇならそれの意味についてよく考えるんだな」


そして最後に…

「じゃあ、またな」



「あー!もしかして」

「漸く分かったか、鈍感」



確かにあのときは全く気づかなかった。

佐久間は今までありがとうの意味で握手をしようとしたからだ。

そして最後に不動はこう言った。

「じゃあ、またな」

『またな』ということは再び会えるということ。
だから『ありがとうございました』なんてお別れはしたくなかった。

そして佐久間はその事にも気付いていなかった。


「それなら帝国に来るって言ってくれればいいのに」

「良いだろ?これが俺のやり方なんだからよ」

「素直じゃないのは相変わらずだ」

「まぁな」

「っていうかどうやって編入したんだ?編入試験は春だぞ?」

「なんか真帝国学園と姉妹校だから優遇制度があってそれで入った」

「あんな学校にそんな権限があったのか…潜水艦のくせに」

「まぁ影山が絡んでたから何でもできるんじゃねぇの?」


そんなやり取りをしていると二時限目の開始を知らせるチャイムが鳴った。

「取りあえずこれからもよろしくな佐久間、それと…」

不動は源田の方を向いた。

「あん時は悪かった。俺の事を許してくれとは言わな――」

「よろしくな」

「は?」

「だから俺とも仲良くしてくれなってこと」

源田はそう言って右手を差し出した。

それはあの時の事を許すということ。

それは不動にも分かった。
だから

「ああ、よろしくな」

不動はそれだけ言って源田の右手を取った。


「おい、授業始めるぞ〜」


すると煩い教師の声が教室に響いた。








- ナノ -