ログ2011〜2013 | ナノ







一生に一度の記念日




厳しい練習も終わり、選手達が自由に息抜きするこの時間、俺はとある奴と約束をしていた。



誰かと言えば―――




「あれ、不動君?こんな時間に外出?」


「ヒロト…」



うわっ…めんどくせーヤロウに見付かったと思えば時既に遅し。
しかも後ろには豪炎寺までいやがる。


「今日外出ってことはやっぱり…」


「あれだよね」



ヒロトはニコッと笑い、あたかも知っているような口ぶりで話す。
まぁ知っているようなっていうか知ってんだよな、こいつらは…



「分かってんならいいだろ。俺は行くからな」


「ちょっと待て。何でわざわざ外に出るんだ?」


再び引き留められた事を露骨に不満がったが豪炎寺は己の疑問の方が大切なようだった。



「あれ?豪炎寺君知らないの?今日は不動君と佐久間君が付き合い始めて1ヶ月記―――」


「やめろぉぉ!こんなところで言うな!!」


「ああ、不動が叫んだ日か」


「そっちはもっとやめろ…俺に思い出させるな…」


「いいじゃん、不動君格好良かったよ」


「あんなのどこが格好良いんだよ…」



1ヶ月前の記憶を辿り、思わずため息を吐いた。


確かに二人の言う通りだ。

今日は俺と佐久間が付き合い始めて丁度1ヶ月になる日。
だから今日は廊下とかお互いの部屋じゃなくて二人の始まりの場所にしよう、なんて事になり外に出ることになったんだが…

その場所というのが豪炎寺の言った『不動が叫んだ日』と関係する訳で…






1ヶ月前



「あーやべぇ…俺かなり重症かもしれねぇ」


「不動君の恋煩いは末期だと思うよ」


「お前に言われたくねぇよクソビッチ。けど確かに佐久間見るだけで体温上がるし話せた時とか1日中その事思い返してるし鬼道クンと話してるところ見てると異様にむしゃくしゃするし最近は生足とか制服姿とかスク水とか着て夢に出てくるし…」


「うわー不動君ド変態だね。救いようがないや」


「ヒロトに救いようがないって言われたらそうなんだろうな」


「本人がそう言っちゃうレベルまできてる…でも制服はいいよね、不動君も制服フェチなら話合うよ」


「お前と話合いたくねぇ!」


「まぁまぁ二人とも。不動は思春期真っ只中の男なんだから変態なのは当たり前だ。安心しろ」


「すげー安心できねぇ慰められ方なんだが…」


「ただそこまで惚れ込んでるならいっそ告白してみたらどうだ」


「はぁ!?それ本気かよ!!」


「ああ。どうだ?ここは男らしく当たって砕けろ!」


「砕けちゃまずいでしょ」


「不吉な応援をどうも。…まぁ告白すんのも悪くはないんだけどよー」


「「けど?」」


「あー…だから、その…いつどこで何て告白すればいいか分からねぇんだ」


「なるほど」


「でもそれは不動君が決めた方が」


「俺恋愛とか知らねぇもん」


「う〜んと…じゃあ折角ここは海がすごく綺麗だから、夜、海に呼び出して『〇〇好きだー!』みたいな感じに叫べばいいんじゃない」


「確かに海はいいかもな」


「そうか…」




「みなさーん!!練習始まりますよぉ!」


マネージャーの声が休憩時間の終了を知らせる。



「あ、やべぇ、じゃあ行くか。二人ともありがとな」



こうして俺は一足先に練習に戻ってしまった。
この後の2人の会話も聞かずに




「おい、ヒロト…いいのか、あんなベタベタなシチュを教えて」


「いや、海って事は参考になるはずだし叫ぶのは冗談だっていくら恋愛に疎い不動君だって分かるでしょ」


「まぁそりゃそうだが…」


「時と場所以外は自分で考えてねっていう俺なりのメッセージだったんだけどな」




―――――





練習中もどうやって呼び出そうかとか何て言おうかとか色々考え、取りあえず呼び出すことには成功した。


就寝前の自由時間。佐久間は俺の指定した海辺に来てくれた。


「不動、どうしたんだ?こんなところに呼び出して…」


きょとんとした表情はやっぱり可愛くて、これはコクるしかないなという状況になり


俺は覚悟を決めた。


そして海の方を向き



「俺は!佐久間の事が好きだぁぁぁ!!」

と言われた通り叫んだ。
すると


「嘘…!!」


叫び終わってから聞こえた『嘘』という言葉。
それは目の前で呆気にとられている佐久間の声ではなく…


「ホントにやっちゃったよ…」


「ってお前ら!!覗き見してたのかよ!」



声を聞いた時に嫌な予感はしていたがやはりヒロトと豪炎寺が隠れていたのだ。


「それにしても本当に叫んだとは…」


「は!?お前が叫べって言ったんだろうが」


「いや…あれジョークだったというか冗談」


「おい!!!」


最悪だった、恐らく俺の人生の中で一番恥をかいた日だったと思う。


「ヒロト…てめぇ…」


「まぁまぁ…取りあえず佐久間君の返事を聞こうよ。で、佐久間君はYES?NO?」


「俺!?……えっ…と」


佐久間は暫く黙り込んだ後、放心状態に近い俺の前に立ち、その美しい橙色の瞳で俺を真っ直ぐ見つめると


「俺も不動が好きです」


そう言った。



「おぉっ、不動良かったな」


「おめでとう不動君」


「うるせぇ!!お前らはさっさと帰れ!邪魔だ」



こうしてグダグダではあったが俺の告白は成功し、佐久間と付き合う事になった。


恋人になってからは一緒にいる時間も増え、頭を撫でたり手を繋いだりと恋人らしい事も出来て幸せだった。
今は付き合ってから1ヶ月が経ったが平和に仲良く過ごせ、こうして記念日を祝うこともできるのだから問題はないのだが…



「今となっては懐かしくなっちゃうね」


「そのまま忘れろ」


「いい思い出としてとっておくのも悪くはないぞ?」



このギャラリーはどうにかならないのだろうか…
もしあのとき俺が佐久間に振られでもしたら――そう考えると今でも恐ろしい


騙された俺も俺だが…



「結果オーライだよ。気にしない」


「そうそう。佐久間だって男らしい奴が好きなはずだ」


「お前ら少しは悪いと思えよ」


「なんだかんだで不動君達の事は応援してるんだよ?」


「見えねー…」


相変わらずな2人を眺めていると時計が目に入り俺はハッとした。


「やべー!!約束の時間!」


こんなところで油を売っている場合ではなかった。









「悪ぃ、佐久間…」


全速力で走って来たが佐久間は先に来ていた。


「大丈夫。ヒロトか豪炎寺辺りに捕まってるかな〜なんて思ってたから」


「当たり」


俺はそう言いながら佐久間の隣に座った。


「俺も風丸や吹雪に捕まってたから」


「マジかよ…」


みんなこういうの好きだよな、なんて事を話しながら、どちらからともなく手を重ねた。



「早いな、あれからもう1ヶ月か」


「ああ…」


「あの時の不動、格好良かったよ」


「…それは思い出させるな」


どうやらヒロトや豪炎寺だけでなく佐久間まで俺が叫んだ事を覚えているようだ。


今だけエイリア石を持ってきて記憶消したい…


なんて流石にブラックだから言わねぇけど切実にそう思う。

すると隣でクスリと笑う声が聞こえた。


「何がおかしいんだよ」


「いや…不動が1ヶ月経っても引き摺ってるなんてって思ったらさ」


「当たりめーだろ」


「いや、でもあれはお世辞抜きで本当に格好良いと思ったぜ?それにな、俺だけにあんな一面を見せようとしてくれた、それがすごく嬉しかったんだ」



佐久間はそう言いながらそっと俺の肩にもたれ掛かり、俺は重ねていた手を佐久間の肩に回した。


ふわりと髪から香る香りは整髪剤の匂いなのだろうか。

否、この匂いは人工的に造れるものではない。
甘くて爽やかでそれでいて落ち着く匂い。
これは佐久間の特有のものであろう。


俺は肩に回した手で今度は髪に触れた。
ずっと触ってみたいと思っていたその髪は案の定綺麗で痛みなんか知らないような絹糸みたいな髪。



俺は佐久間の全てが好きだ。

その落ち着く匂いも綺麗な髪も、強い意志を示す橙色の瞳も、
そして

「お前、天然で馬鹿でおっちょこちょいで鈍感で素直じゃなくてガキだけどさ」


そこまで言うと佐久間はムッとした表情で俺を見た。
そういうところがガキっぽくて可愛いんだけどさ。


「いつも頑張り屋だし他人の事を人一倍思いやれるしすげー根性あるよな」


「そ、そんなことない…」


今度は照れ臭そうに俯いてしまう。


「俺はそんなお前に惚れたんだからな、覚えておけよ」


ぽんぽんと頭を優しく叩くと小さな声で「ガキ扱いするな」と返ってきた。

嫌じゃないくせに…
素直じゃねぇな


「俺だって意地悪で生意気で口が悪くて…
それでもすごく優しくて暖かくて…それでいて毅然とした態度で影山に立ち向かったお前を好きになったんだ」


あのときの不動も格好良かった。
佐久間はイタリア代表決定戦の時の事を思い返しながらそう言った。


「って事は俺たちはお互いが好きって事なんだな」


「そういう事だ」


自分達で言っておいて今更ながらに照れ臭い。
お互い目を逸らしたが俺は逸らしつつも佐久間の顔からは目を離さなかった。


相変わらず綺麗な顔。
女みてぇって言ったら怒るんだろう。
それでも中性的な顔立ちのコイツは同性の俺から見ても本当に可愛い。


恥ずかしそうに俯いている顔はどこか大人びた雰囲気まで醸し出していて見つめている間に俺の心拍数は確実に上がっていった。



コイツ…毎日どんどん綺麗になってやがる



形の良い薄い唇に意識が集中したと思ったらいつの間にか佐久間と唇を重ねていた。
本能が動き衝動に駆られたのだろう

自分でも流石にまずいと思った。
まだしたこともねぇのにこんな――



「悪い…」

顔を離せばぼぅっとしている佐久間の顔が目の前にあり、頬は紅潮していた。


「佐久間…?」


「不動…今さ…お前」


「急にこんな事してごめん…」


「あ、そうじゃなくて…何が起こったのか分かんなくなっちゃっただけで……」


「嫌じゃなかったか?」


「うん。ただ驚いただけだし…むしろ嬉しかった」



…なんだこいつ…誘ってんのかよ

佐久間は本当に俺の理性を飛ばすのが上手い。
そしてそれが無自覚なことがアイツの魅力の一つでもある。


俺は佐久間の頬にそっと手を添えて囁くように


「もう一回してもいいか?」

そう言った。

佐久間は一瞬驚いたような顔をしたが、恥ずかしそうに再び頬を真っ赤に染めると『はい』とだけ答えた。


本日二度目のキス。
さっきみたいに唇を重ねるだけのような軽いものではなく、相手の酸素を奪ってしまうくらいの深いもの。



「ん……はぁ…」


「舌、…使え…よ」



キスに応えられない佐久間にそう言ったはいいものの佐久間はそれどころではないのだろう。

けれどこっちだって余裕はない。
緊張はするし恐らく上手くはねぇだろうし。

それでも何度か舌を入れているうちに佐久間も恐る恐る応えようとする動きをみせた。
お互いの舌が絡み合う度に俺の服を掴んでいる手の力が強まる。
そんな佐久間がいとおしくて仕方なかった。



やがて唇を離し、佐久間の顔をまじまじと見つめれば『見るな』と軽く頭を叩かれた。


「そ…んなに、見られたら…恥ずかしいだろ…」


「じゃあお前は絶対にそんな顔、他の奴に見せるなよ?」


こんな佐久間を見ていいのは世界で俺だけなのだから



「お前さっき『俺だけにあんな一面を見せてくれた』って言ったよな?だから――」



俺には
俺だけには

色々な『お前』を見せてくれ



「おい、だからなんだよ」

会話が途中で切れたせいで不満そうな佐久間。
だが『ちょっと恥ずかしいので言うのやめました』なんて言うのはもっと恥ずかしい訳で


「あ〜…だから、まぁお前は自分らしくしてろって事だ。ただし俺の前だけ」

適当に恥ずかしくないよう言葉を選ぶも結局変わらなかったりする。

それでも今日くらいいいかななんて思ってしまう。


「不動」


「なんだよ」


「好き…」


「!……馬鹿、んな事知ってる……だから…俺も好きだ」


「俺も知ってる」


佐久間はクスリと笑い、俺の肩に再び寄り掛かった。


「ありがとな、佐久間」


「ん?何が?」


「こうやって俺の隣にいてくれてさ」


「それなら俺の方こそありがとうかな」


「この先もずっと一緒にいような」


「俺も不動と一緒にいたい」


繋いだ手はいつまでも離れる事はなかった。


今日は1ヶ月記念だけど、それが一周年、二周年ってずっと続けばいい。
そうすれば今日の事も1ヶ月前の失敗談もこうやって笑い合って話せるから。






俺を受け入れてくれて
俺を好きでいてくれて
沢山の幸せを教えてくれて

ありがとう


「これからもよろしくな」

俺がそう言えば佐久間は満面の笑みで頷いた。



8月16日は不佐久の日!

字数オーバーとか聞いてない(泣)
前編後編に分けました…
そして遅刻しましたorz
なのにこんなベタ話ですみません。
折角の記念日だったので思いきりいちゃいちゃして欲しかった←
これからも不佐久が幸せでありますように







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