ログ2011〜2013 | ナノ







企画物『矛盾する心と身体』の続きです







情事の後、不動は皆に見つからぬよう部屋から出ていき、佐久間はそれをぼんやりと眺めていた。



関係を持ってから、佐久間は不動に対して分からない事が増えた。


身体だけの関係。それを前提に取り引きしているのだからもっと乱暴に扱われてもいいはずなのだが、不動はそうしなかった。


鬼道の事を強く思ってしまい、何度か彼に抱かれる事が辛かった。


そんなときも取り引きだから拒んではいけない。
だが不動はそんな佐久間の頭を優しく撫でて、後は何もしなかった。


佐久間はそれが不思議で仕方ない。
不動は自分を利用しているだけのはずだ。
優しくするのも彼なりの考えがあるのでは。

そう考えてはみたが、優しさを疑う自分が嫌になってしまう。
佐久間自身彼を利用していたはずだ。鬼道の代わりのつもりだった。

それは今、過去形になってはいないだろうか…





「なぁ…不動」


「なんだよ」


「…ごめん、何でもない」


情交の最中、佐久間は聞こうと思った事を掻き消した。


「変な奴」


不動にそう言われたが何も言えない。



どうしてこんな俺が好きなんだ?




佐久間は不動を利用している。それなのに彼は佐久間を愛していてくれる。
身体目当てなら優しくはしないはず。



なら何故…



「お前さぁ、今何で俺がお前の事が好きかって思っただろ」


「!」


図星だった。当たっているだけに何も言えないでいると不動は不敵に笑い、そっと耳元で囁いた。


「好きなのに理由なんかねぇよ」








もうやめよう。これでは不動が苦しむだけだ。


朝がきて、眩しい窓の外を眺めながら佐久間は心に決めた。

この関係に終止符を打とうと。





今朝も何事もなかったようにミーティングが終わり、練習までの準備時間となった。


「鬼道」


佐久間は廊下を歩いていた鬼道を呼び止めた。


「佐久間か。どうした?」


何も知らない鬼道は突然呼び止められた事も特に気にせず振り返る。


「鬼道、俺さ…」


告白する気だった。それで潔く振られて全て終わらせるつもりでいた。

それが自分の為であり、何よりもこんな自分に尽くしてくれた不動の為であった。


「お前の事が――」


「待てよ」


言葉を遮られたかと思うと腕をぐいと引っ張られ、バランスを崩した拍子に唇を奪われた。


「なっ…」


一番驚いたのは他でもない、鬼道だった。
それでも混乱する頭をなんとか整理して冷静さを保つ。


「不動、お前何やってるんだ。佐久間から離れろ!」


また不動が佐久間に何かしたのでは。そんな予感が浮かんだ。


その言葉を聞いて不動は唇を離し、佐久間の身体を抱き締めるように引き寄せるとにやりと口角を上げた。


「別にいいだろ?今日始まった事じゃねぇし。それに今更キスぐらいで。」


「なんだと…!?」


「俺たちはさ、」


「不動!!」


佐久間は思い切り抵抗を始めた。だが力の差は埋められないのか不動はびくともしない。
それでも佐久間は自分たちの関係を知られるのが嫌だった。
しかもよりにもよって想い人である鬼道になんて堪えられない。


「離せって…」


「不動!!」


鬼道の一喝が効いたようで佐久間も不動も固まってしまった。



「お前は何なんだ。佐久間に何をした…下手な真似をしてみろ、その時は許さないからな」


鬼道は佐久間にまだ罪悪感が残っていた。だからこそ佐久間を傷つけようとする不動が許せない。


だがその恋愛には程遠い鬼道の気持ちが…親切心が佐久間を傷付けていたなど彼は知る由もない。



「鬼道クンは優しいんだな、結構な事で」


「ふざけるな」


「けどな、そんなお前の中途半端な気持ちがこいつをどれだけ苦しめてたか知らないだろ」


「なんだと!?」


「佐久間はお前が好きなんだよ」


「…!!」



鬼道は思わず言葉を失った。まさか佐久間が自分にそんな感情を抱いていたなど思ってもみなかったのだ。



「やっぱり知らなかったのか」


「もう黙れ!」


もうこの場にいるのさえ辛い状況に佐久間は思わず怒鳴った。
しかし不動はそんな彼に更に追い討ちを掛ける。



「で、コイツは報われない想いに耐えられなくなって俺に抱かれてるって訳」


不動はさらりとした口調で言ったが鬼道も佐久間も凍りついた。



最悪だ


佐久間は心底そう思った。これで鬼道には軽蔑され、チームメイトとしてさえ見てくれなくなる。
元はといえば己がした行動が招いた結果ではあるがこんな形で鬼道に知られるなんて思ってもみなかったし思いたくもなかった。



「もういい!頼むから離してくれ!」


「何れにしても」


不動は佐久間の訴えを聞かず、抱き締めている腕の力を強めた。


「俺は佐久間が好きだ。佐久間が鬼道を好きでもこの気持ちは変わらない」





佐久間はいつの間にか抵抗を止めていた。


鬼道の前でこんな事する奴なんか突き飛ばせばいいのに


不動なんか嫌いだ、こいつは利用しあってただけなんだ


そう思っても身体が動かない

何故か彼の腕の中で大人しくしている自分がいた



矛盾する心と身体


本当は気付いてた


本気で愛してくれる彼に絆されていることを




長くなってしまったのでカットしました。






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