ログ2011〜2013 | ナノ







微裏です
用語注意










「取り引きをしないか?」


二人の関係はその一言から始まった。



利用し合う関係しか知らない二人




「好きだ。付き合って欲しい」


一代一世の告白。
そんな事を言えば大袈裟かもしれない。
だがこの先で他の誰かに告白をする機会はないだろうと何となく分かっていた。


そんな彼の…即ち不動明王の告白を受けたのは佐久間だった。
しかし佐久間はそれに応えることはできないと断った。


「鬼道か…?」


「…」


「鬼道が好きだから俺の気持ちは応えられないって事か…」


「そこまで知っていて何で…」


告白したんだよ


佐久間の言いたいことは容易に分かった。
それでも仕方ないのだ。
不動だって本当は隠すつもりであった。
始めから叶わないような恋なのだから何もしないでおこうと。
だが日々彼に対する想いは大きくなり、一瞬彼が鬼道を好いているのを忘れてしまうくらいになってしまうくらい夢中だった。


そして――


「俺はお前が好きなんだ。それはお前が誰を好きであろうと変わらない」


佐久間は不動の真っ直ぐな瞳をぼんやりと見詰めながら考えていた。


鬼道が自分を見ていないのはずっと前から分かっていた。
だから不動の叶わない恋をする気持ちは痛い程分かる。


その結論にあるものは…



「なぁ不動…取り引きしないか?」


「取り引き?」


「俺はお前に心で応えることはできない。でも身体くらいならお前にやれる」


「なっ…」


あまりにも意外な発言に不動は言葉を失った。


「だから俺の身体は不動の好きにすればいい」


「つまり俺は鬼道の身代わりって事か」


「解釈はお前に任せる。俺だって苦しいんだ…ずっと届かなくて報われなくて…それでも諦められない。いいだろ?俺がお前に利用されるんだから」



違う。こんなの間違っている。


自分にしては道徳的な事を考えたと不動は思った。


でも確かにそうだ。不動はこんな事を望んだのではない。
そしてこの取り引きで佐久間を傷つけることはしたくなかった。
それでもこれを拒絶すれば彼がこの先振り向いてくれることはないであろう。



あれこれ考えていると突然唇を重ねられた。


「俺が欲しいんだろ?」


くすりと妖艶に笑う佐久間はどこか寂しそうだった。

この寂しさを埋めてあげられるのであれば―――


「分かった。これで交渉成立だからな」



その夜、二人は初めて身体を重ねた。



その日を境にお互いは幾度となく性交を繰り返すようになった。

所謂セフレに近い関係。そんな事は当の本人たちが一番よく分かっている。


間違っている事だとも思っているしお互いの為にならないことも知っていた。


それでも離れることはできない依存した関係だということも気付いていないはずがない――




目が覚めれば隣で佐久間が寝ている。
それも今では普通になってしまった。
不動は彼の頭を優しく撫でてやると、寝惚けているせいで警戒心が薄いのかそれを大人しく享受した。
そんな彼を見て不動は小さくため息を吐いた。



関係をやめたい。
そう言ったら佐久間はどんな反応をするだろうか。
そんなのは目に見えていた。


(どうすりゃいいんだよ…)



不動は今まで彼と身体を重ねる度に後悔していた。
佐久間は宣言通り、身体しか不動を受け入れないのだ。


心はいつも鬼道に向いている。
だから佐久間が不動を見たことなど一度もなく、最悪なときはセックスの最中に鬼道の名前を呼んだ。

それでも彼は契約は守っている。
身体は大人しく不動に預けるのだから交渉通りであった。
稀にどうしても苦しいのか身体すら拒んでいるように見える時は不動から身を引いた。
しかし不動にはそれが苦痛で仕方なかった。
勿論佐久間のことは好きだ。だから彼とのセックスは望む事でもあるし、若い熱を発散できるという面でもメリットはある。

しかしそれだけであった。
それは愛でも何でもない。恋だの愛だのそういった幻想的なものには疎い不動ではあったが、今の自分達に愛があるとは流石に思えなかった。

不動はセックスに嫌悪感を抱いていた。
セックスは愛の営みだとかそんな事は到底信じられず、身体を重ねるのはお互いの欲に忠実になるから、それだけの事。
幼い頃の環境が原因なのか、彼は触れ合いを嫌っていた。
その性格が嫌悪感を抱かせるのだろう。
別にセックスが嫌いな訳ではない。
ただ、人間の性欲を利用した行いを愛だとは到底思えないのだ。

別に身体を求めなくたっていい。
普通に好き合っていたかった。

しかしそれは叶わぬまま、愛する人には愛されず、身体だけ繋がった関係になってしまった。

こんな愛を望んだのではない。
だから関係をやめたい。

そう思ったはずなのだが

それでもせめて身体だけでもいいから繋がっていたいと思う自分がいた



矛盾する心と身体


彼の中にある矛盾点




F×S 様に提出しました。






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