"佐久間とは揉めるかもしれない"、という俺の嫌な予感は的中した。
佐久間とは恐ろしいほどウマが合わない。
それならお互いに距離をとれば良かったのだが、苛立つ事に佐久間は俺にいちいち突っ掛かってきた。白黒はっきりつけたい性格なのか、単に中身がお子様なのかは知らないが兎に角向こうが喧嘩を吹っ掛けてくる。
全部佐久間が悪いと思っていた当時の俺にとっては、佐久間の存在はストレスでしかなかった。

まだクラスにいるときは関わらないように避けていたから、精々体育祭の時にひと悶着あったくらいで揉め事も少ない方だった。
何よりいけなかったのは同じクラスというだけでなく、部活まで被ってしまったこと。

五月半ば、部活の仮入部期間最終日に行われたサッカー部の入部テストの日、佐久間がいたときには目眩すらした。
おまけに上手い。どうせ女みたいな顔だし、大した事はないだろうと見下していたがあっという間に先輩を抜いて強烈なシュートをお見舞いし、ゴールを決めた。テクニックやボールのキープ力は俺の方が断然上だが、スピードやキック力は佐久間の方が秀でていた。

「鬼道さん鬼道さん、今のシュート見てました?」

「ああ、すごいじゃないか佐久間」

「でも、鬼道さんほどじゃないですよ」


あっさりと入部テストを通ってしまった佐久間は、鬼道の横でにこにこしながら愛想を振り撒いていた。
俺に対する態度とは正反対。憎たらしいこの上ない。

佐久間が鬼道を慕っているのは小学生の時かららしい。俺は知らないが、会社同士の付き合いも深いためお互いに仲良くしていたようだ。

古くからの付き合いからだからなのか、佐久間は鬼道大好き人間で、仮入部期間は他クラスである鬼道の教室まで行って毎回鬼道を誘っていた。
一度、鬼道に「お前すげぇ好かれてるぞ」と言ったら「そうだな、佐久間は末っ子気質なところがあるからな」と呑気な返答が返ってきた。
次郎というくらいだから上の兄弟がいるのだろうけれど、あれは末っ子だから、なんて理由じゃ収まらない。犬っぽいというかなんというか、相当甘やかされてきたんだなという感想しか出てこなかった。


入部してもレギュラーにならなければ、人数の多い帝国のサッカー部は二軍や三軍へ飛ばされる。

アイツのシュートを見てしまうと、二軍行きなんて可能性は低いが、毎年競争率の高いFWなら落ちるという"希望"も残されている。
きっとそうだ、冗談じゃない、部活まで佐久間とずっと一緒にいるなんて考えただけで寒気がする。



*




「鬼道さん、よろしくお願いしますね」

語尾に音符マークでもついてそうな声色で鬼道に話し掛ける。
鬼道がおめでとうなんて言ってる横で俺は頭を抱えたくなった。
最悪だ。よりにもよってスタメンにまで選ばれてしまった。こんな奴が一軍のスタメンなんて今年のFWはだらしない。まともな奴いねぇのかよ。

あからさまに嫌そうにしている俺に気が付いた佐久間は、俺の方へやって来た。

「おい、なんだその顔は」

「はっ、何でもねーよ」

「何でもないことないだろ、言いたいことあるなら言えよ」

ほらきた、こういうところが面倒くさい

「うるせぇ、女みたいにキーキー喚くな。女なら大人しくマネジでもやってな」

「なんだと!」

佐久間が俺に掴み掛かる。取っ組み合いになりかけたところで鬼道が無理矢理に止め、

「不動、暴力とは何事だ。いいかお前は―――」

と、お得意の説教を垂れてきた。佐久間には怒らない。毎回俺のせいになる

そして部活が正式に始まっても喧嘩は続き、取っ組み合いになりそうなところで俺が鬼道に怒られるというパターンがお馴染みとなっていた頃、俺達帝国生は夏休みを迎えようとしていた。






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