俺と佐久間が和解してからの、俺たち一年D組の成長ぶりは素晴らしかった。
といっても今までが酷すぎて、ようやく周りのクラスと対抗できるレベルにまでなったくらい。それでも俺たちにとっては大きな進歩だっだ。
やがて、他クラスも驚くほどの練習量あってか、十月の中旬には新聞部が取材にやってくるくらいの受賞候補にまでなっていた。

「こんにちはー、新聞部です!」

昼休みにわざわざ足を運んでくるこいつらは本当にマメだ。偶然、俺たちのクラスには新聞部はいないものの、帝国の新聞部はサッカー部同様全国大会常連校で、多くの部員を抱えている。

「不動君と佐久間君いますかー?」

昼飯を食っている真っ最中だったが不意に名前を呼ばれ、俺たちは思わず目を合わせてしまった。

「行った方がいいよな?」

「うん」

「ほらほら、お前ら行ってこい。弁当の心配はするな」

「「だから食うなよ!!」」

弁当を狙う源田を気にしながらも俺たちは廊下で取材を受けることになった。
中坊の作った新聞、と馬鹿にできないのがこの部活の恐ろしさだ。この記事は全校生徒が見るのはもちろんネット配信もやっているせいでOBやOGのジジイやババアも読む。
この学校の生徒は卒業しても、一生帝国学園と付き合いが続く。彼らの愛校心は時に不気味さを感じるくらいだ。
ガキが作った新聞読むなと思っても熱心に読むし、ガキのやってるサッカーなんか観るなと文句を垂れても彼らは訪問だとかなんとか言って観戦にやって来る。
帝国学園で優秀な人間だった奴ほど社会で成功者と呼ばれ、そんな奴ほど帝国との繋がりを大事にする。それはまるで帝国学園のお陰で私は成功しましたとでも言うようなもので、やはり俺はそれを奇妙だと思った。

「特別賞候補?俺たちが?」

「はい、新井先生から三年B組、三年E組そして一年D組がそうだとお聞きしました」

「やっぱり残りは三年生か」

「唯一一年生ということの感想は?」

「うーん……嬉しい!」

「ガキかお前は!」

能天気にニコニコしながら答える佐久間に突っ込みつつ、なんと答えていいのか俺にも分からなかった。意外に取材に答えるって難しいんだなというどうでもいい感想しか出てこない。

「まぁ学年とか関係なく金賞も目指して頑張りたいです」

「はい、分かりました。ありがとうございます」

頑張って頭を回転させた上で出た答えがこれだった。その答えに向こうが満足したようなので良かったとしよう。
FFで優勝したとき、本物のマスコミに取材を受けていた鬼道を改めてすごいと思う。

「それと〜」

その他にもいくつか当たり障りのない質問に答え、俺たちの取材は終わった。
最後に写真を撮られたとき、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「「あ……」」

「ご協力ありがとうございましたー」

取材料として昼休みを欲しい。

「源田ー、てめぇ弁当取ってねぇだろうな」

「安心しろ、俺が全部食った」

「えぇぇぇぇ!」

「冗談だ。練習前に食っとけよ」

「ったく、脅かすなよ」

「どうだった?取材」

「ああ、楽しかったけど……」

「けど?」

佐久間は思い出したように不安な表情を見せた。

「受賞候補の名前なんて言っていいのか?」

それがあるから去年もいじめがあったのではないか。佐久間はそう言いたいのだろう。

世の中が平等だのなんだの騒いでも帝国学園の教育方針は決して揺るがない。テストだって全員の名前が乗った順位表が配られる。つまり最下位の奴が誰なのかなんて簡単に分かる。ここはそういう学校だ。

目的はこの時期に受賞候補を出すことで、選ばれた者は自信がつくし、他の奴らも逆転すべくより努力するようになること。実際候補と全然違うクラスやペアが受賞することも当たり前にあるそうだから、このインタビューはなくならないだろう。
そして何より

「いじめなんか教師には分からねぇよ」

大人にバレるようなヘマをする奴など帝国にはいない。だからこそより陰湿なものが起きる。下手にチクれば余計面倒なことになったり、逆にこっちが悪者にされたりなんてこともあるから、やはり自分の身は自分で守るべきなのだろう。

「そうなんだ……」

佐久間はどこか不安げな表情を浮かべていた。




*


授業が終われば練習。練習が終われば部活。行事があるせいで部活の時間が短縮される――なんてことは当然なかった。
始まりが遅くなればそれだけ部活の時間が後ろに延びるだけ。
クラスの練習でどれだけ消耗していようとも部活にそれを持ち込んではいけない。特に俺や佐久間は例の新聞で指揮者、伴奏者であることを知られてしまい、より先輩の目が厳しくなった。

"サッカー部が音楽行事にそこまでに肩入れする必要はないだろう"

"俺たちは部活が最優先のはずだ、サッカーをなめているのか"

というなんともためになるお話を聞いている時間が一番もったいないと感じる。それでも一応ハイハイと適当に対応し、足元をすくわれないよう実力を見せつけた。

家では相変わらず容赦ない宿題の山に悩まされる。俺たちは行事だからといって甘やかされることなどなかった。寧ろこの行事だって他の奴らにとっては自分を高める踏み台の一つだ。後先考えなかった俺だって楽しんでやるものじゃない。
それでも――

「不動!起きろ!」

教科書で頭をはたかれて目が覚める。

「なんだよいつもいつも勝手に入って来やがって」

「お前が寝てたら起こしてくれと頼んできたから起こしてやったのになんだその言い草は」

鬼道は半ば呆れた様子で俺を見ていた。そういえばそんなことを頼んだなと思い出し、適当に詫びる。

「まだまだ残ってるぞ。ほら早くやれ」

未消化の宿題を見ると目眩した。だがさっさと終わらせないと明日の朝練にも響く。

「あー!何でこんな宿題あんだよこの学校は!」

「そんなの今日始まったことじゃないだろ」

「合唱コンの練習多すぎんだよくそが」

鬼道は呑気に俺の部屋で寛いでいる。もう終わってしまったのだろう。俺は悪態をつきながらもペンを動かした。

「不動」

「あ?」

「なんかお前、楽しそうだな」

「はぁ!?」

思わず手を止めて鬼道の方を向いた。
俺が楽しんでる?まさか。
だがこの毎日に充実感を得ていることだけは確かだった。
認めるのは癪だが、俺はこの行事を楽しんでいる、かもしれない。

「楽しくなんかねぇから」

苦し紛れにそう言って、愉快そうに笑う鬼道を無視しながら宿題を片付けていた。









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