夏休みとはいえサッカー部に休みはない。毎日朝早くから夜遅くまで部活漬けだ。
夏休み後半にはFFがある。その前にまたレギュラー選抜が行われるため、そこでもう一度レギュラーにならなくてはならない。
強化合宿を終えた七月の最終日、俺たちは影山総帥の号令のもと、グラウンドに集まった。
そう、今日FFに出場できるメンバーが選ばれるのだ。

「これから、FFに出場するメンバーを発表する」

影山が読み上げる名前に俺の名前はあった。まぁ当然だろう、俺が選ばれないはずがない。
他に選ばれた一年は鬼道、寺門、源田、辺見と、俺たちの代は優秀なようで例年の一年生より多かった。それは別に構わない。寧ろ同年代に良いライバルがいるのは刺激になる。そういうことじゃない、俺が嫌なのは一年で選ばれたもう一人のこと……

「鬼道さん鬼道さん、FFですよFF!!俺たち、FFに出られるんですね!」

何でこいつが入っているんだ。入部してから佐久間を二軍に落とさせるような強力なストライカーがやって来るのではと期待し続けたがそれは叶わなかった。FFに出られる事がよほど嬉しかったのかガキみてぇに騒いでいる。鬼道も鬼道で、そんな佐久間におめでとうなんて祝いの言葉を掛けていた。

その後、選ばれたメンバーだけ残されて引き続き影山の話を聞く。
まず選ばれた者として、帝国学園サッカー部員として、無様なプレーは決して許されないということ。そして――

「キャプテンを交代する」

その言葉にメンバーたちはざわめいた。早すぎる、いくらなんでも早い。春に新二年生がキャプテンになったばかりじゃないか。影山の考えは分かるがこいつは鬼道を育てるということになるとえげつないことでも平気でする。
影山は鬼道中心のチームを作るべく、できるだけ早いうちから鬼道をキャプテンにしたかったのだろう。ただ、入部当初にキャプテンにしたところで周りがついてこないだろうから鬼道の実力をある程度証明してからある程度時間を空けたのかもしれない。今日までキャプテンだった先輩は気の毒だが仕方ない。影山のいるここはそういうところだ。

「キャプテンは鬼道有人」

「はい!」

鬼道は返事をして前に出た。そして俺たちの方を向き

「よろしくお願いします!」

と頭を下げる。
皆が拍手をしている中、佐久間はうっとりと鬼道を見つめていた。

「鬼道さんがキャプテンのチームでサッカーやれるなんて」

ああ、これで佐久間の鬼道さん大好きっぷりは悪化するだろう。そんな事を考えては気が重くなる。あのテンションは嫌いだ。

「それでだ」

総帥が話を再開させたので一同水を打ったように静かになる。

「ここからは鬼道を中心としたチームを作っていく。そこでキャプテンの補佐役である参謀も交代させる」

今まで黙っていたメンバーたちもざわつき始めた。キャプテンだった先輩は既に放心状態だったが、参謀だった先輩まで慌て始める。少し滑稽だった。

初等部の時はキャプテンのみだった。
だから今回参謀という役目が増えて少し期待した。一部員ではなく役職があれば「鬼道さんに向かってなんて事を言うんだ」みたいないちゃもんをつけてくる馬鹿犬を牽制する事だってできる。それだけじゃない、鬼道の右腕になるのに、こういった経験は将来的にも為になる。やってやろうじゃねぇか。
影山は俺の事をガキの頃から知っているし中学へ入ってからの実績も見ている。参謀は俺に決まっているじゃないか。他に誰がいる。

「参謀は佐久間次郎」

「えっ……?あ、えと、はい!」

鬼道と違ってぐだぐだな返事。前に出てきても実感が沸いていないのかしどろもどろになりながら挨拶をしていた。
鬼道の時同様拍手が起こったが俺は受け入れられない現実にただ立ち尽くしていた。

まだ嬉しさと動揺であたふたしている佐久間は影山から落ち着けと注意までされている。

何故だ
何故俺じゃないんだ

「話は以上だ。解散」

「「はい!」」

影山は去っていく。選ばれたメンバー達は皆嬉しそうな顔をしているのに、俺だけは喜べない。メンバーに選ばれるなんて俺には当たり前のことだった。選ばれただけで幸せなんて事じゃない、俺は佐久間に負けたんだ。鬼道の右腕として育てられてきたはずの俺が、こんなボンボンに負けるなんて有り得ない。佐久間が許せない。
そして、そんな佐久間に負けた、自分自身も許せなかった。










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -