鬼道さんが帝国にいるけどFFI後 不動や辺見は寮生 サンタクロースを何歳まで信じていたか。 それは何気ない会話の中で上がった話題。たかがそんな話で喧嘩になるなど誰が予想できたであろうか。 「今年もサンタさん来るかな」 この日はクリスマスイブ。それでも帝国学園サッカー部の活動は関係ない。練習を終えて、部員たちは帰り支度をしていた。そこで何気なく言った佐久間の言葉に不動は 「まさかお前、まだサンタとか信じてんの?」 と馬鹿にしたように聞いた。嘲笑を交えたその言葉に佐久間はムッとしたものの、 「そうだけど」 と返す。すると不動は馬鹿じゃねえのと鼻で笑った。 「嘘だろ、中学生にもなってサンタクロースいるとかどんだけガキなんだよ」 何故そこまで馬鹿にされなくてはならないのか。サンタクロースは実在すると信じている佐久間は腹立たしい気持ちになった 「そういうお前は信じてないのか?」 「俺は信じたことなんかねぇな。サンタなんか」 「だって毎年枕元にプレゼントを置いてくれるじゃないか!」 佐久間の反論に不動は少し言葉が詰まった。枕元にプレゼントなどそんな記憶、不動にはない。小学校でサンタさんから何をもらったかなんて話題が出る度にクリスマスが憎くて仕方なかったのだから。 「それはお前の親がやってんだよバーカ」 「馬鹿じゃない!お前に夢がないだけだ」 部員たちはチラチラと二人のやり取りを見ていたものの、この程度ならいつもの事だから止めたりはしない。 「ちげぇよ、お前がガキなんだ。大体俺はそのサンタって奴から物品をもらった事なんかねぇよ」 「……それはお前が悪い子だったからじゃないのか?」 「は?喧嘩売ってんのお前。中学生にもなって不法侵入してくるじじいの存在信じてるなんて頭おかしいんだよ!」 「なんだと!」 口論から掴み合いに発展した。殴り合いになってもおかしくない状況。そんな中、鬼道がいち早く二人を止めた。 「いい加減にしろ、サンタクロースがいるかいないかで喧嘩なんかするな!お前たちは小学生か!」 もうまさに鬼道の言う通りだ。そこにいた皆がそう思った。二人も鬼道に止められてしまいそれ以上手を出す事はなかったものの、お互いそっぽを向いてしまった。 それを見てやれやれとため息を吐く鬼道。 不動も佐久間も気が強く、つまらないことでよく喧嘩をしていた。 その為誰もがあの二人が付き合っているとは本人達から聞いた事で知ったものの、事実だとは到底思えなかった。 * 鬼道と佐久間は帰り道が同じなので大抵二人で帰っている。自宅から通えない不動や辺見は寮生だが自宅通学者も少なくはない。 佐久間は先程のやり取りを思い出しては不貞腐れていた。 「佐久間、そんな顔するな。可愛い顔が台無しだぞ」 「何言ってんだよ」 鬼道に言われても佐久間の表情は直らない。サンタクロースの存在を否定されてそこまで怒る佐久間も佐久間だが、その辺りが可愛くもあった。 しかし鬼道には不動の気持ちも分かる。不動の家庭環境を考慮するとクリスマスはなかったのだろう。そんな状況でサンタクロースを信じる方が無理であった。 「佐久間」 「なんだ?」 「不動の家が経済的に大変だって話は知ってるか?」 「え?」 寝耳に水、そんな顔をしているところを見れば知らなかったのだろう。鬼道が知ったのもアジア大会で響木監督が話したからだ。勝手に話していいものなのか、少し躊躇する気持ちはあったものの、恋人である佐久間なら大丈夫だと何の根拠もないがそう結びつけて不動の事を話した。 話を聞いた佐久間はただただ驚いていた。何も知らなかった。そして、不動が自分に何も言ってくれない事がとても寂しかった。それでも不動が言わなかった理由が何となく佐久間には分かってしまう。不動は、佐久間が自分の事を理解するのは無理だと思っているから。 付き合ってきてそれなりの事はした。身体を重ねる事だってあった。それでも、佐久間は不動の事を全然知らないのだ。不動が教えてくれないからじゃない。自分が知ろうとしなかったから。 ぶつかってでもいいから知るべきだった。 もっと、彼の事を。 「……ごめん鬼道。俺、忘れ物しちゃったから先に帰っててくれ」 「ああ」 自分に背を向けて颯爽と去っていく佐久間を見て、鬼道はフッと微笑んだ。 * 今日は寮の中も騒がしい。寮生の親が会えない我が子にもプレゼントを、と彼らの欲しいものをわんさかと送ってくるからだ。 (ったくガキばっかだな) 流石に佐久間のようなサンタクロースを信じている人間はいないにしてもこの空気は不快だった。自室にいても感じる。いい加減にしてくれと思いながらベッドに転がるとコンコンと部屋をノックする音が聞こえた。 「入ってもいいか?」 声の主に驚いた。先程喧嘩したばかりの佐久間が、しかも自宅通学である彼がここに来るなんて信じられない。 慌ててドアを開けると更に衝撃的な光景を目の当たりにした。 「お前……その格好」 「変……かな」 「いいから入れ、風邪引くぞ」 手首を掴んで強引に部屋に招き入れる。混乱する頭を整理出来ないまま取り敢えず佐久間と向かい合って座り、経緯を聞いた。 「その格好はなんだ」 「これは……近くのお店で買って、店員さんがこれ似合うからって勧めてきてさ」 似合うことは似合う。しかしそういう問題ではないのだ。佐久間を女だと思った店員は、男子用のサンタクロースの衣装ではなく女子用でしかもミニスカートのサンタコスプレを勧めた。肩や胸元も色っぽく露出され、ニーハイソックスとスカートの間から柔らかそうな太股が見え隠れしている。 健全な中学生男児である不動にとっては完全に目に毒だった。寮生活になり、佐久間と最後にしたのも最早遠い記憶であったし、部活が忙しくてここ最近自分で抜いてもいない。そんな状態でこんな刺激的な格好で来られても正直困るのであった。何よりこのまま帰せるとは思えない。 「寮にはどうやって入った。ここ、寮生以外立ち入り禁止だが」 「お前知らないのか?俺、ここの寮母さんと仲がいいんだ。俺の事気に入ったみたいで写真一枚撮らせてくれたらいいよって言われたから――」 「……」 不動はもう何も言えなかった。突っ込みたい事が大量にあるのだ。寮母がこんな適当でいいのかとか、写真で買収している佐久間とか。しかしさっきから佐久間の姿を前に理性を保つことが大変で、それどころではなかった。 すると、経緯を伝え終えた佐久間はペコリと頭を下げた。 「その、さっきはごめん。鬼道からお前の昔の事聞いてさ……」 「くそ、あのお喋り野郎が……」 響木といい鬼道といい、何故勝手に人の過去をぺらぺらと喋るのだろうか。口の軽さに不動は呆れ返っていた。 特に佐久間には知られたくなかった。恋人にそんな格好悪い話を聞かせるなんて、と思っていたし、ましてや佐久間の家は資産家だ。自分が惨めになるだけなのだから話す気は起きなかった。 「俺、不動の事をもっと知りたいんだ。別に無理に何もかもを話さなくたっていい。でも俺は不動の恋人だから、辛いときや悲しいときは側で支えられるようになりたいんだ」 不動も佐久間もまだまだ未熟だった。だからこそすれ違うし喧嘩もする。けれど、お互いに好きだという気持ちは変わらないのだ。佐久間が自分に歩み寄ろうとしてることが不動にも分かった。そして、今度は自分の番だということも。 「俺も今までお前に格好悪いところ見せたくねぇってずっと思ってた。でもそれじゃダメなんだよな。俺ももっとお前の事知りたいし、俺の事を知ってほしい」 「俺もだよ」 佐久間はそう言って不動の唇に軽くキスをして、パッと立ち上がり衣装を見せびらかしながら 「ほら、不動、サンタさんは実在しただろ!」 と言った。 「お前がサンタクロースならお前にプレゼント渡す老人は誰だよ」 部室での会話の矛盾っぷりに不動は思わず苦笑した。それでも嫌な気はしない。佐久間は少し言葉を詰まらせた後、 「サンタさんは沢山いるんだ。だからお前のサンタさんは俺でもいいの」 そう答えた。 そんな佐久間に意地悪したくなったのと、そろそろ限界だったのもあり不動は佐久間の前に手を出した。 「サンタならプレゼントくれよ」 「あ……えっとごめん、プレゼントは買うの忘れちゃったからまた後日――」 言い切る前に佐久間は唇を塞がれて床に押し倒された。 咄嗟の事でパニックになり抵抗するものの、不動はお構いなしにスカートの中に手を入れる。するりと入ったその手が太股を撫でると思わず甘い声が上がった。 「あっ、ん……ちょ……なにしてんだよ馬鹿!変態!」 「は?クリスマスプレゼントってお前だろ?」 「違っ……何で俺が」 そう言っている間に元々露出の高かった服は脱がされていき、首筋には赤い刻印が残される。 「こんな格好で来やがって、誘ってんじゃねえよ。こっちは溜まってんだ」 不動の愛撫が激しくなるにつれて佐久間の身体も火がついたように快感を求めるようになった。今日は帰れそうにないなぁと思いながら、久しぶりであった不動とのセックスに酔いしれた。 * 朝目覚めると腰に鈍い痛みが走った。昨夜の激しい交わりを思い出すと仕方ないかと諦めがつく。佐久間が起き上がったことで不動も目覚めたのか思いきり伸びをしていた。 「不動、おはよ」 「はよ、お前昨日すごかったな」 朝起きて第一声がそれか。 佐久間は顔を真っ赤にしながら枕を不動の顔面に命中させる。 そんな恋人がいとおしくて、不動は優しく抱き締めた。 「照れんなよ」 「うっさい……」 初めてサンタクロースから貰ったプレゼントは君でした <食堂にて> 「辺見おはよ」 「今日は早いんだなデコ見」 「やっぱり佐久間が泊まってたか。お前らヤるのは勝手だがうるせぇよ!隣で寝てる俺の身にもなれ」 「えっ?聞こえてた!?うわー最悪、早く忘れろ馬鹿」 「あら〜佐久間君の彼氏って不動君だったのね〜お似合いだわ」 「寮母さん注意してくださいよ!」 終わり タイトルはあの有名な歌詞から。 クリスマスプレゼントが嫁というのは鉄板ですね。 私もここの寮母さんになりたいです。 ←→ |