じわじわと大きくなるトラックは、近づくにつれ、その速度を増すように思われる。右上がりの曲線で。なだらかな加速で。おくれて翻る晩冬の冷気が、時速80キロの鉄塊の、質量を予測させるようだった。

幼少の時分、昨日という日の終りはいつか、と父に問うたことがある。
午前零時だと父が言えば、幼い伊澄は黙ったきり大人しく床についたが、しとりと冷たい布団の下で少年は考える。23時59分59秒には0・9秒後も0・99999秒後もあり、鏡合わせの最果てのように終わりの瞬間は無限に訪れないという感覚は、しかし、彼の粗末な語彙では形の据わることはなかった。
昨日がおわる瞬間はいつなのだろう。それは剃刀の刃のように、昨日と今日の隙間に挟まっているのだろうか。するどい一瞬。景色の透けるように薄くて、硬質な、一瞬。薄緑の一瞬。
いま、そのご10年の間に重ねられた日々と日用語の範疇で、彼は違和感の形を見る。一本道の国道に橋を渡す横断歩道の、青信号の5つ目を見送りながら。

死をもたらす痛みの終りとは、いかなるものか。





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