映画を見ていた。俺ですら聞いたことのある題名の映画だった。たしか、古い小説の題名だったのではなかったか。俺は俺の脳味噌を信頼しているわけではないので、断言はできないが。
主役らしい人物を演じる俳優の顔には、見覚えがあった。若い、派手な顔の、男である。随分最近撮られたらしい映像と、身につけた着物とがチグハグで、俺の胃を締め付けるこの違和感は、そこから来るのだろうかと思った。
退屈な映画だった。けれどそれにもまして、その日の俺は退屈だった。気怠い夕方。理由の解らぬ、焦燥。テレビの垂れ流すがままに、惰性で見始めた映画である。
主人公の男はろくでなしの男であるらしかった。酒ばかり飲んでいる。女で遊んで、自己嫌悪し、死のうとしていた。
物語は取り立てて派手なシーンもなく、幾つかの場面転換を繰り返した。俺は携帯を眺めながら、ぬらぬら連ねられた疎らな台詞を聞いていた。
何人か有名な役者が最もらしく演技をしていたように思うが、中ほどのストーリーはあまり覚えていない。
まあ、なんにせよ最後に、落ちぶれた男は世話役の老婆と、田舎の小さな家に閉じ込められた。
死んだ目をしている男を、老婆が抱いて寝ていた。男は老婆の胸に抱かれて、鼓動を数えている。母を呼ぶ子の顔をして。
俺には母の愛が無かったのだ、と男は言った。
今まで感じていた違和感が苛立ちとなって、急激にその温度を上げたように感じた。
看過出来ない怒りが、俺の内臓を綯い交ぜにする。
すべてに裏切られたような気がした。
こんな、とって付けたようなグロテスクな結末があってたまるか。
この男の破れかぶれの人生の理由が、他の人間に転嫁されていいはずがない。すべてが、この男以外の人間の仕業だというのなら、彼の行動の、人生の、すべてに意味はない。血を吐いて生きた人生を、彼が生きた価値はなくなってしまう。
俺の感情すら、俺から取り上げようっていうのか。

テレビを床に叩きつけた俺を押さえつける兄が、あまりに悲しそうな顔をするので、俺の怒りは収まりそうにない。



マイ・キネマ

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -