撫でるような優しいストロークが、イヤホン・アンプを通して、耳を透き通る。
この単調な、けれども揺るがないリズムを聴いたことがある、と宮村は思った。


横になって、携帯の画面を睨みつけていると、耳に何かが押し込まれるのを感じた。
表面上の不機嫌を浮かべて振り向くと、エレキ・ギターを抱えた進藤が、隣に腰を下ろしている。宮村の右耳に収まったイヤホンを繋ぐ、白いコードは二股に別れて、一本はギターに、もう一本は進藤の耳に収まっていた。練習したんだ、まあきいてと進藤は言う。


「なんて曲?」
「こいのうたっていう、曲」

俯いてペグを調節する進藤を見て、宮村は俄かに思い出した。
彼は、その曲を知っている。


宮村の音楽プレイヤーには様々の曲が入っていた。レコードであったら擦り切れているだろうほど、繰り返し聴いた曲もあれば、一度聴いたまま忘れられてる曲も、ある。忘れもしない、進藤の弾こうとするその曲は、己の抱く感情を自覚した日までは、後者であった。


詩がのせられることはなく、ただ続けられるギターコード。しかし幾度となく繰り返したフレーズは、ギターの弦の弾かれる度に脳の血液にしみ出して溶けるように、脳内で再生される。
息がうまく吸えないようであると宮村は思った。なぜだろう、と喉に手をやる。
違和感は霧のように広がり、飽和した空気は重さに耐えきれず、ぽたり、と嫌悪の水滴を落とした。波紋の広がるように、ざわざわと視界が揺れる。
唐突に、ここに存在する進藤と自分の聴いた"こいのうた"は共存しえないのだ、と理解した。と同時に、あれ程盤石であると思われた二つの存在が、霞の向こうに遠ざかる。

歌詞のない曲を弾き終えて、進藤はいう。
「宮村、おれ、お前が好きだ。」
そして宮村は、己の口が随分ときっぱりした調子で、こう言ったのをきいた。

きもちがわるい。





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