近ごろ、自分という人間が方向づけられて行くようであることが恐ろしい。
自分の望まぬ内に自分は女になり、大人になり、それに従った人生が決定され、要求されているように思える。
由紀は好ましいものを自分から遠ざける傾向の少女であった。それは自分という人間の輪郭の生ずることが、恐ろしいせいなのかしらんと思うことがある。由紀は様々のものを嫌悪する少女であるがゆえに、様々の自分自身も嫌悪した。常に己の隣に立ち、冷えついた視線をもって、自分を注意深く監視した。期待が裏切られて絶望するのを避けるために身につけた、狡猾さのためであったかもしれない。この先も自分は全てであることを否定しながら、ここに立ち止まり続けるのではないかと思うと、けだるい憂鬱が彼女の手足を重くする。と同時に、このまま全く同じ今日をすごしたいと切に願うのだった。決定のない日々を、永遠のモラトリアムを。

トイレの個室で、下着に赤が差しているのに気付いて、耐えがたい陰鬱に縛られる。まばらだった周期が年を経るごとにどんどんひと月に近づいていくことが、堪らなくグロテスクだと由紀は思った。
体の変化が立ち止まることを許さない。人生の中で最も輝くべき季節が、愛を知らぬ精神の手を引いて駆け出そうとしている。

その日の放課後、戯れと些細な口論と、苛立ちの応酬として、由紀は言った。

私を勝手に解釈するのはやめて。

それは、故意に感情が隠蔽された事の分かる不自然に落ち着いた調子であったため、石川は、隣にすわる少女の、突然の怒りの発作に言葉を失った。
意思をもって発した言葉ではあったが、過敏になった神経が石川の表情の変化をとらえて、由紀は己の脆弱に泣きたくなる。が、もう遅い。


「ときどき、自分がひどい境遇に産まれてくればよかったと思う。言い訳がほしいの。だから夏は嫌い。だいっきらい。夏に要求される生き方が、苦しい。」

どうしたらいいか、わからないと言ったころには伏せられた瞳にたまった涙が、弾けていた。

決定の保留という選択は、どのようにしたら得られるのだろう、と由紀はしばしば考える。この人生を私のものでなくする方法、言い訳。そして、それが簡単である事は、よく分かっているのである。



そうだ透、恋をしましょう。






( with love ふくろうず「みぎききワイキキ」 )

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