注:跡→リョ描写があります。


「よぉ手塚、遅かったな」
「跡部……。越前を返せ」
「断る」
「跡部ッ!」
「なんで俺様がてめぇの言うことを聞かなきゃならねえんだ。アーン?」


現在跡部邸では、火花が散っていた。
理由は一つ。跡部が越前を攫い、手塚を怒らせたから。
本当に散らしているんじゃないかと思うぐらい、手塚と跡部の睨み合いは凄まじい。
攫われた越前はというと、ソファに座る跡部の膝の上で肩にもたれ掛り眠っている。手塚が起きろと叫んでも微動だにしない。
事の発端は跡部が青学に来たことから始まった。
いつも通り、部活が終わると後片付けの時間になる。
ボールを片付ける為、倉庫に行った越前。しかし、いくら待っても越前は帰ってこなかった。
何かあったのかもしれないと、手塚と大石で様子を見に行くが、倉庫はもぬけの殻だった。
ふと下を見ると一枚の封筒が床に落ちていた。
手塚がそれを拾い上げ、中身を見てみるとそこには


『越前リョーマはいただいた。返してほしくば手塚国光一人で跡部邸に来たれ』


手塚は大石に皆は帰るように言ってくれと頼むと、走ってその場を去った。
跡部邸に着くと、自然に門が開いた。まるで歓迎しますとでも言うように。手塚は珍しく感情を表に出す。怒りだ。
早足で邸内に入り、広間の扉を勢いよく開けた。
そして、冒頭の台詞となる。


「一先ず確認させてくれ。越前は無事なのか」
「当たり前だ。俺様がこいつに暴力を振るうとでも思ってんのか?」
「念の為だ。……跡部、何が目的だ?」
「目的ねぇ……」


手持無沙汰な跡部は、越前の髪をいじり始めた。
その行動に手塚は手を強く握りしめた。それに気付いた跡部はフッと笑う。馬鹿にしたような笑いだ。


「そうだな。目的は俺様がこいつを好きだから、とでも言っておこうか」
「なに?」
「好きなんだよ。こいつが」


指に髪を緩く絡めたまま、跡部は越前の頬にキスをした。
それがくすぐったかったのか、越前は身じろいするが目は覚まさない。
手塚は先程よりも強く手を握りしめ、眉間にしわを寄せる。
跡部は予想通りの反応だなと呟くが、今の手塚には聞こえていない。


「いい加減にしろ、跡部。越前は大切なうちのテニス部員なんだ。早く返してもらう」
「ハッ!何綺麗事言ってんだよ。なあ手塚、そろそろ本音を吐きだせよ」


言わねえんだったら、越前は返さねえ。

跡部は越前を抱き締め、態度で俺のものだと示す。
手塚は葛藤していた。言ってしまってもいいのか。言ってしまえば今までの関係は崩れてしまうのではないか。しかし言わないことには越前を取り返すことができない。どうすればッ……!
暫くすると、雰囲気が荒れていた手塚だが落ち着きを取り戻し始めた。一瞬僅かに俯いたがすぐに前を向いた。視線は跡部。ではなく、越前に向いている。


「俺は、越前を……」

「人生をかけて大切にしたいと思っている」

「その言葉に偽りは?」
「ない」


跡部は想像以上だと内心歓喜した。手塚を見つめる視界の端で、ごそりと影が動き出したのが分かり、抱き締めていた腕をほどいた。


「よお、聞いたか?今の」
「当たり前」
「え……、越前……!?」
「おはよーございます、手塚部長」
「あ、ああ。おはよう。……待て、寝ていたんじゃなかったのか?」
「寝ていましたよ?フリ、ですけどね」
「あ、跡部……?」
「どうだったよ、俺様の演技力の程は」


パチンとウィンクをする跡部に、手塚はやられたと頭を抱え、溜息を吐いた。
その様子に跡部と越前は目を合わせ、してやったりとにたりと笑う。


「だがなぁ、越前」
「?」
「お前のことが好きなのは案外本気かもしれねえぜ?」
「えっ、ちょっ!?」
「なあ、あんな奴やめて俺様にしろよ。たっぷり愛してやんぜ?」


膝に乗ったままの越前をいいことに、跡部は腰に腕を回し顎に指を添え、顔の距離を縮める。
流石の越前も力には敵わないのか、必死の抵抗をするが意味をなしていない。
そして、互いの唇の距離が残り1センチとなったそのとき。


「跡部、越前は返してもらう!」


越前の腹辺りに手塚の腕が回り跡部から引き離すと、そのまま抱き上げて広間から出ていってしまった。
いきなりのことに驚いた跡部だが、越前を引き離した瞬間合間見えた手塚の顔に笑いを抑えきれなかった。
一しきり笑い満足したのか、足を組んで腕を背もたれにかけると、まだ邸内にいるであろう二人に聞こえるように声を出した。


「手塚ぁ!少しでも越前を離したら俺がもらいに行くぜ!それから越前!また何かあったら言いな!助けてやるよ!」


聞こえはしないが二人の返事が手に取るように分かるようで、跡部の高笑いが広間に響いた。


跡部邸を出て暫くすると、青学への道筋が現れた。


「手塚部長、そろそろ下ろしてくれないっすか」
「駄目だ」
「じゃあせめて普通の抱っこにしてください。俵担ぎは腹が痛いんすけど」
「ふむ、仕方ないな」


手塚は担いでいた越前の体を少し下に下げ、よく見る抱っこの体勢に変えた。
無言の空間が二人を包む。越前はふと思い出したかのように、手塚の首元に埋めていた顔を上げ、手塚の正面に体を起こした。


「部長!オレまだ聞いてないっすよ!」
「?、何をだ?」
「部長から、その、好きって……、聞いてない……」


照れて目を逸らす越前の後頭部を手で押して、再度首に顔を埋めるようにした。
折角起き上がったのになんで?と手塚の顔を見ようとする越前だが、それを制するように手塚は越前を首に押し付けた。
いくら頑張っても手塚の顔をみることはできなくてしょうがない、と諦めると、突然耳に手塚であろう指が触れ、髪をかき上げた。


「んっ、なに……!?」


"好きだ"

耳元でぽそりとそう聞こえた。
越前は手塚の首に腕を回し、ぎゅーっと抱き締めると「オレも……」と小さく呟いた。
あまりにも声が小さすぎて聞こえなかった手塚は聞き返そうとして、やめた。
真っ赤な耳にクスリと笑うと、越前の頭をぽんぽんと撫で、歩みを進めた。





−−−−−−
初塚リョ。
似てないにも程がある。

20130208
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