「一氏ウジウジのあほぉ……」
屋上のフェンスに背中を預けて座り込んだ。
俺がらしくもなく落ち込んでいるのは、全て一氏ユウジのせいや。
「冗談でもあんなこと聞かんかったらよかった……」
『ねえユウジ先輩』
『なんやー財前』
『俺と小春先輩、どっちが好きですか?』
『そんなん決まっとるやろ』
「別に期待はしてへんかったけど……」
本気で言われたらへこむものがある。
一氏ユウジが小春先輩のことが好きなんは全校全員知っとる。でも、付き合ってるんは俺やで。この財前光やのに……。
ぶっちゃけ、俺がこんなにそれだけのことで傷ついてるんは俺がまだ一度も一氏ユウジから好きとか言われてへんからや。一回ぐらい言ってくれてもええのに、あの人ときたら恥ずかしがって好きの"す"も言うてくれん。まあそこがかわええねんけど、ってあかんあかん、惚気てる場合ちゃうねん。俺は今怒ってんねんから。
あれ、怒ってんの?落ち込んでんのとちゃうかったっけ?
「あかんわ、もうわけが分からん」
「わけが分からんのはこっちじゃボケ」
「あ、ウジウジ」
「ウジウジ言うな!……なんでどっか行くねん」
少し逆光になっていて見えにくいが、いつにもまして不機嫌そうな顔。なんであんたが不機嫌やねんな。
特になにも言うことがないから一氏ユウジの全身を観察する。
成長の妨げにならん程度に鍛えられた筋肉。ものまねするために万人受けの肌色。なんで付けてるんかは知らんヘアバンド。釣りがちの目。
「な、なんやねんな……」
「いやぁ、なんで俺こんなんに惚れたんやろなぁ思いまして」
「こんなんってどういうこっちゃ!死なすど!」
「……はぁ……」
「なんか言えや!ったく、なんやねん。急に走り出して、何処行ったかと思ったわ」
「………」
「ほんで見つけたらなんや落ち込んどるし……。なぁ、どないしたん?」
未だに座っている俺に目線を合わせるように膝を折る一氏ユウジ。
俺はまたらしくなく、口をとんがらせてプイッとそっぽを向いた。それにカチンときたのか、一氏ユウジのこめかみがぴくぴくしている。
そんな怒んのやったら追いかけてこんかったらよかってん。なんやねんな、ほんまに……。
「ウジウジ先輩、なんで追いかけてきたんですか」
「やからウジウジって、あーもうええわ。……付き合ってる相手が急にどっか行きよんねんから、追いかけんのは当たり前やろ」
「好きとか一回も言わんくせに、よう付き合ってるとか言えんなぁ」
俺がそういうと、一氏ユウジは心底驚いた顔をした。
まさか財前光ともあろう俺が、こんなこと言うとは思わんかったんやろ。俺こんなこと言う奴ちゃうしなぁ。
チラリと一氏ユウジに目をやると、一人で百面相をしていた。赤くなったかと思えば眉間にしわを寄せたり、何かを取っ払うように頭をぶんぶんと横に振ったり、一体何を考えとるんやこの人は。
ようやく自分と決着がついたのか、真剣な顔で俺の肩に手を置いた。力みすぎて若干食い込んで痛い。
「ええか。よく聞け。俺はなぁ」
「……はい」
「俺は……、一氏ユウジは……」
「………」
「……あ゛ー!!あっかああん!!」
散々待たせておいて、何も言わずに屋上から出ていった。
俺はそれに対して呆れしか出てこんかった。すると、バンッと扉が音を鳴らして出ていったはずの一氏ユウジが戻ってきた。
「ええか!俺はな!お前のことが好きちゃうねん!」
そうかそうか、一氏ユウジは好きでもなんでもない奴と付き合え「俺は!」まだ続きあんのかい。
「俺は!お前がっ、財前光を愛しとるんや……!!」
「……は」
「今のが俺の最初で最後の告白や!ちゃんと覚えとれよ!」
叫び過ぎて荒くなった呼吸を整えるユウジ先輩をよそに、俺は呆気にとられてた。
は、好きやなくて愛してる?なんやそれ?そんなん、そんなん。
「めっちゃ嬉しいやん……」
「ハッ、恐れ入ったか財前。顔真っ赤やぞ」
「……れ…、…い……と…」
「あ?なんやて?」
俺は勢いよく立ち上がり、大きな声を出した。
「っ俺も!愛しとる!」
「なっ!」
次はユウジ先輩の顔が赤くなった。
真っ赤な顔で向かい合ったまま、何を言うたらええんか分からんくて、無言の空間が出来上がった。
それを先に壊したのは、俺やった。
「え、ユウジ先輩……?」
「黙っとれ」
「………んっ」
再度肩に置かれた手は、ユウジ先輩には似つかわしくなく優しかった。
二人色
−−−−−−
この二人、似てるようで似てない。
20130207