「い、いやや!」
「行かなあかん」
「いーやーやー!堪忍してや白石ー!」
「はぁ……。あのなぁ金ちゃん。痛いのがずっと続くのと、痛いのが一瞬で終わるのと、どっちがええと思う?」
「そら一瞬で終わるんがええ……」
「そやろ?ほら、行くで」
「えー!でもその一瞬めっちゃ痛いやん!」
「それぐらい我慢しなさい」


ぐだぐだと何時までたっても足が前に進まん金ちゃん。
事の発端は金ちゃんのお母さんが昨日電話で『最近なぁ、金太郎ご飯食べるときなんやしかめっ面するんよ。あれ多分虫歯やと思うから、白石くん、明日金太郎を歯医者に連れてってくれん?』
それ聞いて、俺も最近金ちゃんが部活帰りにたこ焼きやら善哉やら食べたときに変な顔してたん思い出したわけや。
俺が健康オタクなんを見越してのお願いやってんやろな。任された以上、完璧に治したる!治すん俺ちゃうけど。


「着いた着いた。金ちゃんのお母さんが予約してくれてる時間よりちょい早いけど、ええやろ。早いに越したことはないで」
「行かなあかん……?」
「もう着いてもたしなぁ。大丈夫や、すぐ終わる」
「むー……」


渋々と決心し、足がノロノロと扉に向かって歩き出した。
それに俺は偉い偉い、と頭を撫でる。
中に入ると受付で診察カードを出して、待合室のソファで順番を待つことになった。
待つと言っても5分ぐらいで、すぐに順番が回ってきた。
待ってる間にまた少し嫌な気持ちが出てきたのか、金ちゃんが不安そうに俺を見た。


「白石ぃ……」
「大丈夫や金ちゃん。想像してるよりも多分痛ないって」
「多分……」
「いいいいや金ちゃん!痛ない痛ない!ああ、そや金ちゃん。暴れずに泣かんとちゃんと治療できたら、帰りにストテニ寄って、俺と打ち合いしよか。今言うたこと守れたら、やけどな?」
「ほんま!?ほんまに泣かんと帰ってきたらワイと試合してくれるん?」
「したるしたる」
「何回も!?」
「おうおう」
「基礎ができてへんとか言わん!?」
「お、おお」
「よっしゃ!絶対やで白石!」
「はいはい」
「ほな、行ってくる!」
「いってらっしゃい」


俺の予想やけど。金ちゃん多分暴れるな。
あー、ほら、言うてたら


「いやや!痛いのいやや!……麻酔もいやや!注射やろ!?」


うーん、その注射はぴっと痛いだけやねんけどなぁ。
初めてやからな。うんうん、しゃあないわ。
麻酔はやめて我慢することにしたんか、治療室からは何かを叩くような音が時折聞こえるようになった。叫びを足か手で表してるんやと思う。
待合室にあった雑誌をぱらぱらっと読み流して20分。治療室と待合室の境界線となる扉ががちゃりと開かれた。
終わったのかと、雑誌から目を離して扉を見ると、涙目やけどすっきりしたような顔の金ちゃんがいた。


「白石、ワイ泣かんかったで!」
「そやな。いいこいいこ」
「はよストテニ行こうや!」
「そやな。でもお会計してからな」
「はーい」


痛みも恐怖もなくなった金ちゃんは来る前とは別人のような明るさで、いや、いつもの金ちゃんに戻ったの方がええかな。
会計も済んで、歯科医院を出た。
これでテニスができる!とるんるんと歩く金ちゃんが、ストテニの少し手前で声をあげた。


「し、白石大変や!」
「どないしたん?」
「ワイら、ラケット持ってへん……!」
「ああ、それなら大丈夫や。ほれ見てみ」


丁度見えたコートを指さす。そこには、見知ったメンバーが俺達のテニスバッグを持ち、待ち構えていた。
金ちゃんもそれが分かったのか、驚きながらコートと俺を交互に見やる。


「な、大丈夫やろ?」
「おん!行こ、白石!」
「え、ちょっ」


手を掴まれ、勢いよく走りだした金ちゃんに少し慌てたが、次の瞬間には笑みが零れていた。


「早かったなー!」
「せやろ?金ちゃん頑張ったもんなー」
「おん!泣かんかったで!」
「泣かんかったとね!?金ちゃん偉いばい!」
「あらぁ〜、金太郎さん偉いわぁ!」
「浮気か!……頑張ったやん、金ちゃん」
「一氏先輩のデレとかきもいっすわ。金太郎、よう頑張ったなぁ」
「哀れやな。金太郎はん、後でワシと一つ手合せ願います」
「銀、哀れって俺のことか!?俺のことなんか!?」
「うんもうユウくんうるさい!」
「ご、ごめんやで小春ぅ〜!」
「金ちゃん、ご褒美にあとでたこ焼きおごったるわ」
「おおきに!……えーっと……」
「小石川です……」

「ほな、そろそろ始めよか!」





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歯医者に行ったのは私です。
気を紛らわせようと思って妄想してたら何時の間にか終わってました。

20130203
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