あなたの名前は、と聞いたのが間違いだった。
こんな長ったらしい自己紹介を聞く羽目になるなんてな。


「と、まあこんなところですかね」
「まとめると、あなたは俺に惚れたシキリさんってことでいいですね」
「そんな冷めたところも好きだよキリマ」
「どうでもいいです」
「仲良くなっていただけてなによりです!リイノはすごく嬉しいですわ!」
「リイノさんの目はどこに付いているのだろう……」


食事の最中に自己紹介をされたもんだから味が分からなかった。後で隙を見てリイノさんに謝らねば。
いつの間にか夜の虫が鳴きはじめ、そろそろ寝る時間だなと席を立った。


「あら、キリマさん何処に行かれるのです?」
「今日はもう休もうと思って」
「もう、またお風呂のことをお忘れですね?」


しまったという顔をすると、肩に手であろうものが置かれた。


「では僕も一緒に入ってきます」
「何がでは、なんですか。一人で入れます」
「そう言わずに!さあ行きましょう!」
「え、ちょっ!」
「本当に今日一日で随分と仲良くなりましたねぇ。なんだか妬けちゃいます」
「リイノさん、そろそろちゃんとお医者さまに見てもらった方がいいですよ」


シキリさんに無理矢理風呂場に連れて行かれる俺に、リイノさんはいってらっしゃいと言ってくれた。


『キリマ兄ちゃん!お仕事終わったらお話ししてね!いってらっしゃい!』
『早く帰ってきてね!』
『いってらっしゃーい!』


ふとハルウェイ国の子供たちに懐かれ始めた頃のことを思い出した。
懐かしいどころの話じゃない。でも、もう一生聞くことはない。
暗い顔をしていたのか、シキリさんに気分が悪いなら休んだ方がいいと言われた。
それに頷きリイノさんから与えられた部屋に歩き出すと、今まで肩に置かれていた手がするりと落ちた。
今まで主人以外に寂しいなんて思わなかったのに、どうしてだろう。すごく心細くなってきた。
俺を見送ろうと後ろに立っていた二人に声をかけた。


「リイノさん、シキリさん」
「なんだい?」
「なんですか?」
「俺が眠るまで、扉の外にいてくれませんか?」
「!、構わないよ。どうせなら部屋の中に「それは結構です」そうか、残念だ」
「私もいいですよ。では、行きましょうか」



リイノさんは俺の背に手を添え、シキリさんは俺の頭に手をぽんと置いた。
この二人は魔法使いはなんかだろうか。たったそれだけのことなのにすごく安心できる。
奴隷だとは言ってないからこんなことをしてくれるんだろうけど、それでも嬉しかった。




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