シキリさんが帰ってきて数日が経つ。
おはようからおやすみまでずっと一緒にいるから、と言われたのを冗談だと思っていたのに有言実行とか言って本当にずっと隣にいるなんて思いもしなかった。


「あの、何回も言いましたよね?」
「なにがだい?」
「トイレの中までついて来ないでくださいって言うこっちが嫌になるぐらい言いましたよ」
「残念ながら私の耳は機能していないようだ」
「そうですか、なら一生そのままでいろ」
「あっはっはっ!冗談だよ!だから遠まわしに無視するとか言わないでおくれ!」
「でしたら、外で待っていてくださいね」
「了解……」


なぜしょぼくれる。同性の用を足す姿なんて見ても面白くないだろうに。
だいぶこの暗闇にも慣れてきたおかげで、すんなりと済ませるようになった。
きちんと手も洗い廊下に出ると、低い位置から声が聞こえた。きっと座っているんだろう。


「早かったね、小の方かな?」
「………ああ、回し蹴りがお好きですかそうですか」
「ごめん悪かった」


この人のこの性格はどうにかならないものかと溜息を吐きたくなる。
そうならないのはきっとリイノさんのお陰だな。中和されてるんだ。
あれ、そういえば


「リイノさん、朝からいませんよね?」
「ん?ああ、そうだね」
「お出かけでしょうか」


いや、それならいつものように一言行ってくると声をかけてくれるはずだし…。


「大丈夫だよ、買い物に行っただけ。ただ少し遠いとこまで行くから朝から出たんだ」


少し焦った俺を見てシキリさんがそう教えてくれた。
感情を表に出すなんて俺も弱くなったな…。平和ボケというやつか。


「………」
「?、なんです?」
「ああ、いや、なんでもないよ。さて、昼食の準備でもしようかな」
「分かりました。食器類出しますね」
「ありがとう、助かるよ」


ここへ来てから面倒だと思っていた食事もちゃんと摂るようになった。
しかし、動いていない分体質のおかげで太りはしないが筋肉は衰えた。
目が見えていれば運動は出来るものの、見えていないとなると変に動いては危険だ。リイノさんやシキリさんにも迷惑をかけてしまう。
本当に弱くなったな、俺……。



その晩、奇妙な夢を見た。
黒い大きな玉と、白い小さな玉。
ふよふよ浮き、異質ななにもない空間に立っている俺の周りをくるくると回る。
試しに触れようとするとかすりもせずに避けられてしまう。
なんだこれは。


『これはね、君の       だよ』


俺の……?
どこからともなく声が聞こえた。幼い子供の声。
誰だと問いたいが口が動かない。


『もうすぐ会えるはずだよ。ボクは君の――』


最後まで聞く前にぐっとなにかに体をひかれた。


「!?誰だ!」


今度は声が出た。
ひっぱられる方へ顔を向けると、見覚えのある奴がいた。


「お前は……ッ!」


ニタリと、奴は笑った。


「随分ひ弱になったなぁキリマよ」
「なんでお前が…死んだはずじゃ…!」
「ああ、そうさ。貴様らに殺されたよ。だが貴様の記憶にはまだいる。生きているんだよ。キリマ、お前の中でな!」
「未練とかいうやつか。はっ、そんな女々しくはねえんだけどなぁ」
「貴様らには殺されたがいいことを教えてやろう」
「いいこと…?」


こいつが俺に良しとする情報なんか教えるわけがない。
嫌な予感しかしないのは気のせいなんかじゃないはずだ。
首根っこを掴まれたままの体勢で警戒なんてしたところでだが、しないよりかはいいだろう。


「お前はまだ生きている」
「……は?」




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