その日の夜。使用人と船員、奴隷は与えられた部屋で雑魚寝をしていた。かたりと小さな音で目を覚ます。
むくりと起き上がり、周りを見るが起きたのは俺と


「お兄。起きたのか」
「ああ。ギュロ、キキョウ、起きたか」
「もっちろーん」
「起きてます」
「……行くか」


小さな返事と共に俺達は部屋から出ていった。


塔から出て、少し歩くと大きいとも小さいとも言えぬ湖があった。
その畔に人影が一つ。


「あなたですか。私たちを呼んだのは」


月明かりが人影を照らす。
現れたのは昼間の赤髪の少女だった。


「……」
「……」


どちらとも声を出すこともなく、時間だけが過ぎていく。
時折何か話し出そうとするが、口ごもる。
その繰り返しで、彼女に冷や汗と思われるものがこめかみから頬にかけてつうっと流れた。
助け舟を出そうとしたその時、彼女が声をあげた。


「あなたたちは辛くないんですか!?」


何を言うのかと思えば。そんな雰囲気が俺の後ろにいるキシキ達から流れ出した。


「人として扱われなくて道具同然で、いいように使われる!痛いことも辛いことも苦しいことも我慢しなくちゃいけない!嬉しいことも表に出しちゃいけない!全部全部我慢しないといけない奴隷で、あなたたちは悲しくないんですか!?」
「"悲しかったよ"」
「じゃあっ……」
「"悲しかったんだよ"。それは今じゃない。ストーラ様に奴隷として拾われる前の話だ」
「え……」


何を言っているのか分からないという顔をしている。
それもそうだと思い、俺は奴隷になる前のことを話した。


「そん、な……」
「世の中まだまだ知らないことがたくさんある。……今の話は黙っていてくれるよね?」
「でもッ……!」
「黙ってて、くれるよね?」


辺りが一気に冷えた。
ぶるりと体を震わせる赤髪の少女。
しぼりだした声で「はい……」と言うのが聞こえた。
別に念を押さなくてもよかった。だって言いたくても言えないに決まっているから。
戻ろうとキシキ達に声をかけ、赤髪の少女に背を向ける。
後ろで座り込む気配がした。

かたりという音は赤髪の少女が出した音。湖に行ったのは部屋の前にある匂いを辿っていったから。空気が冷えたのは殺気を出したから。座り込んだのは彼女の緊張がとかれたため。
内二つは俺達のせいである。
では、残り一つは……?

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