荷物を倉庫に置くと、次は中庭に案内すると女中さんが言ってきた。
何故中庭なんだと思いつつ、相変わらず皆無言で歩きつづけると、緑がたくさん育んだ場所に出た。女中さんが足を止める。どうやらここが中庭らしい。


「ご苦労だった、リュカ」
「いえ、では私はこれで」


シンドバッド王から一言もらうと、自分の役目は終わったというようにリュカさんとやらはその場から去った。
リュカさんの後姿がだいぶ小さくなったところで、シンドバット王が口を開いた。


「改めてストーラ、そして君たちを歓迎しよう!ようこそ、我がシンドリアへ!」
「招待感謝する、シンドバッドよ」


再度握手を交わす主人とシンドバッド王。
本当に仲いいんだな。好感持たれるのはいいことだけど、なんか気持ちが悪い。
んでさっきからまた嫌な予感がするんだけど……。中庭ってのもなんか気になる。
そっと辺りを見渡すがなにもない。緑以外に本当に、なにもない。人っ子一人いない。
シンドバッド王は何がしてえんだ。


「とりあえず、自己紹介でもしようか!ではまずは俺から。シンドリアの国王、シンドバッドという。以後よろしく頼む」
「シンドリアの政務官をしております、ジャーファルと申します。どうぞお見知りおきを。――次どうぞ」
「じゃあ俺な。シャルルカンだ。シンドリア八人将の一人で剣術の達人でもある!ちなみにジャーファルさんも八人将だぜ。よろしくな!次はお前だマスルール」


シャルルカンさんに背中をバシバシ叩かれてるが表情一つ変えない赤髪。
その人からうっとうしいオーラ的なものが出ているがシャルルカンさんは気付いていないようだ。


「……マスルールっす」


なんとも無口な人だ。名前が分かったからいいけど。
そのあと多少脱線しながらもシンドバッド王の後ろに控えていた集団、八人将の紹介は終わった。
次は俺達の紹介なわけだけど、自己紹介ってなんとも新鮮な。
俺達奴隷の紹介は主人がいつも勝手にやってくれてたからやり慣れてない。正直に言うと面倒くさい。
それでも順番は回ってくるわけで。


「最後は奴隷共だな。時間取らすなよ」


"時間取らすなよ"
あっそ。じゃあ簡単にいかせてもらうぜ。
いいか、と奴隷仲間に目で合図すると、全員から了解と小さく頷きが返ってきた。


「奴隷一号でーす」
「奴隷二号っす」
「奴隷三号だ」
「奴隷四号」
「ふざけるでないわ!」


早くしろって言ったの主人なのに……。なんてわざとらしく背を向けていじけてみるとキシキが俺を慰めに、三号と四号は俺を主人から守るように両腕を広げて立ちはだかった。
なんだこの団結力は。


「わーるいんだ悪いんだ!ご主人サマがキリマ泣かせたー!」
「もうご主人はキリマの視界に入るな。許さん」
「あのわざとらしさが目に入らんのかお前たちは!」
「しょうがないよご主人、こいつらバカだもん。つか俺泣いてねえし」
「なんだと!?だ、だまし……」
「てはない。お前の思い込み」
「ちくしょう!恥ずかしい!」
「もうええわい!さっさとちゃんと自己紹介せんか!」


へーいだのはいはいだの適当に返事をして、ぽかんとしているシンドリアの方々と向かい合った。
返事はしたけど奴隷の自己紹介なんて別にいらないんじゃないかって思えてきた。
だって、おいとかそこのとかで自分が呼ばれてるの分かるわけだし。まず名前があることに疑問を持ってきた。
そんなことを考えだしたとき、頭に衝撃が走った。


「……なんすかご主人」
「いらんこと考えてないでさっさとしろ。日が暮れる」
「すんまっせ。――ストーラ様の奴隷をしておりますキリマです。特に言うことはありません。次」
「同じく奴隷のキシキっす。次」
「また同じく奴隷のギュロ。次」
「右に同じ。……キキョウ。以上」

「ではキリマくん。うちの誰か一人と手合せをしてくれないか?」


その場にいる全員の視線が声の主、シンドバッド王に注がれた。
眉間にしわがよった。

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