一粒の種から無数の花




「ゆっきむっらくーん」
「ん?ああ、君か。どうしたんだい」


幸村精市の病室の扉を開けたのは、隣の病室に入院している須藤縁だった。
何も考えていなさそうな顔をしているのがデフォルトだ。


「いやぁ、昨日すごく賑やかだったから何かあったのかなぁ、と」
「昨日……。ああ、部活の仲間が来ていたんだよ」
「そっかそっか。あれ、でも毎日来てるよね?いつもはそんなに賑やかじゃないからあんま分かんないけど……」
「昨日ぐらいは大目にみてやろうかと思ってね」
「何か特別な日とか?」
「んー、俺の誕生日」


軽い拍子でそう言う幸村に須藤は目をまん丸にした。
しかしすぐに何時もの顔に戻す。視線を明後日の方向にして顎に指を添えて一拍すると、ちょっと待っててと幸村の病室を出ていった。
廊下からはバタバタという音と走らない!と声を僅かに上げた看護師であろう女性の声が聞こえた。
それを聞いた幸村はなんとなく予想はつくが何も考えないで待っておこうと決め、くすりと口元を緩ませる。

暫くすると、廊下からだんだん近づいてくる慌ただしい足音が聞こえた。
その足音は幸村の病室の前で止まりガラリと幸村の病室の扉が開かれると、息を切らした須藤が入ってきた。
呼吸は荒いが表情はいつも通りで、幸村はどこかの部長と張り合えるレベルのポーカーフェイスだなと内心思う。


「なにか知らないけど、ご苦労様」
「いやいやそんなことないですよ。――はい幸村くん」


須藤は隠していた右掌を幸村にさし出し広げると、透明の袋と緑のリボンでラッピングされた小さな粒が出てきた。


「これは?」
「よく分からないなんかの種」
「種類も分からない?」
「うん」
「色も?」
「うん」
「くれるの?」
「うん」
「そっか。ありがとう、須藤くん」
「どういたしまして」


満足そうににんまりと笑った須藤に、幸村は一つ提案をした。
一緒に植えてみないか?
いいの?と須藤は聞き返すと、何が産まれてくるか君も気になるだろう?と幸村は答える。
それに照れくさそうにこくりと小さく頷く須藤を見て、幸村はベッドから下りた。


「それじゃあ、花壇を借りに行こうか」
「行こう行こう」


いつのまにかいつもの表情に戻っていた須藤だが、ほんの少し心の内が読める気がしたと、幸村は語った。





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本サイトでは二回目の幸村生誕祝い小説です。
幸村くん、遅くなってしまったけどお誕生日おめでとう。

20130306





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