■ The little match girl

雪が降りそうなぐらい寒い夜空の下、とにかく空気に触れる箇所を少なくする為にマフラーで口元を隠し、カイロを入れたポケットに手を突っ込んでただただ歩いた。
流石に大晦日のこの時間帯じゃ人も少なくなっていて、妙な孤独感に包まれる。


「さっむ……」


今年最後の日、私は恋人である謙也と初詣に来ていたのにひょんなことから仲違い。私は一人で自分の家へと続く帰路を辿って行っている訳だ。
どこで間違えたのだろうか。あんなに楽しみで幼稚園の子の遠足前夜並みにはしゃいで寝れなかったというのに、当日になってみればこのザマだ。
肩を震わせながらマネキンの飾られたショーウインドウの前を歩いて行く。ふと立ち止まり横を向いていると、かなり前に口論になった元凶のマネキンが飾られていた。
赤いチェックの大きめのストール、私が一目で気に入って買おうと思ったのに財布の中身は案外シビアで手が伸ばせなかった。それほど気に入ったストールだったのに横に居た謙也は「あれダサない?」なんて抜かしやがった。そこからもう口喧嘩は止まらなくて、家に帰った後もひたすらイライラした。

その横にあるジャンクフード店では私が買っている間に謙也が逆ナンされていて、その後はもうお葬式並みの静けさだった。静かなのが苦手な謙也はみるみるうちに機嫌が悪くなるし、私は既に機嫌が悪い。最悪のデートだった。

その二個先にある雑貨屋では謙也へのプレゼントを選んでいる時に、謙也の後輩の財前くんと鉢合わせし、一緒に選んでもらっているところを浮気だと勘違いされた。逃げる謙也を追いかけたのにも関わらず無視を決め込み、挙げ句の果てには財前のところ行ったら?なんて馬鹿かお前は。私は謙也が好きだから、そんな謙也に告白されて嬉しくて嬉しくて……


結局私は謙也が大好きだ。

あのストールの時だって後日家まで来て少し大きめの袋を押し付けて帰って行った。戸惑いながらもその袋を開けて見ると、その中にはあの時見たストールよりも断然可愛いオレンジ色のストールが入っていた。ずっとイライラしていたのにどうしようもなく嬉しくて、立ち去った謙也の後を追い掛けてその背中に飛びついたのは忘れられない。

逆ナンされた時も一番気を悪くしていたのは謙也の方だったのに、八つ当たりした私を笑って許してくれた。

浮気だと勘違いされた時もすぐに謝ってくれた。

「ごめん、嫉妬した。めっちゃ情けない」

そう言って俯く謙也がどうしようもなく愛おしかった。



謙也との思い出を振り切ろうと向かい合わせに並ぶ店の間を走り抜ける。殆どの店に思い出があって、そのディスプレイのガラスに自分と謙也の幻影が映っているような気がした。
その時だった、


「痛っ……!」


足を捻りそのまま地面へとダイブ、何してんだ私。咄嗟にポケットに突っ込んでいた手を出し、顔面からこけることはなかったが誰も居ない所でこけるという恥ずかしさと虚しさから、もう何処かに埋まってしまいたかった。


「もう嫌……」


何で謙也と喧嘩なんかしちゃったんだろう。後悔だけがどんどん心に積もっていく。ちくしょう、後も追って来てくれないし本当に私のこと好きなのかよ。


「好きなら追い掛けて来いや馬鹿!」
「せやから追い掛けて来たやん」


え……?
馴染みのある声が聞こえた。その声が聞こえた方をゆっくりと振り返る、するとそこには鼻の頭を赤くした謙也が白い息を吐きながら立っていた。


「何で……」

「お前今言うたやん、好きやったら追い掛けて来いって」
「でも」


でもやない、と言って謙也は私の腕を掴み引っ張り上げた。テニスもしてるし鍛えもしているからか、私の重たい体がすんなりと持ち上がり謙也の顔がさっきより近くなった。


「いきなりどっか行くから心配したわ!大晦日や言うてもこんな時間に女一人でとかありえへん!」
「ごめん……」


本気で心配してくれているらしく、走って来てくれたのか息が上がっている。とはいえ浪速のスピードスターなんだからもっと早い段階で追いついてよ、と思ったが心に秘めておくことにした。だって謙也はこうやって追い掛けて来てくれたのだから。


「謙也、ごめっ……私」
「ごめんごめん、俺も悪かった」


耐えていたものが急に軽くなって、目からは涙がボタボタと零れ落ちる。謙也に抱きついてしまったからさあ大変、服にどんどん涙が染み込んでいく。


「服、クリーニングする」
「ええから……ほら泣け」
「謙也のクセにヘタレじゃないとか……生意気すぎる……」
「それは酷ない?!」


あはは、いつもの謙也だ。
謙也に抱きつく力を更に強くする。

ごめんね、いつも素直じゃなくて。
ありがとう、いつも私を甘やかしてくれて。




「謙也」
「ん?」
「大好き」
「知ってるわ」


謙也の腕の力が強くなるのを感じたのはきっと、勘違いなんかじゃない。




-----------------------------------------
相互記念ということでわさび醤油のうめまろちゃんに贈らせていただきました!
出せる限りの力は出して書いたよ( ・д・)!
持ってる力を出し切った結果がこれだよ、全く。
うめまろちゃんは良い子だから気に入らなくても受け取ってくれると信じてる!そして名前変換使わなかった!
なんか最初に書いてたのは凄く暗くて、こんなん相互記念で贈るべきじゃないわ、って思って書き直したので時間がかかりました(´ω`)いつも暗い話書いてたからか…(´・ω・`)
私的にも久し振りに甘い話かけて楽しかった!

色々ご迷惑かけますが凡ゆる方面でこれからもよろしくお願いします!


−−−−−−
以上を曖昧模糊のろーるちゃんから頂きました!
謙也より夢主ちゃんの可愛さに目がいく。何この子かわいい!
本当に謙也そこ代われと押しかけていきたいぐらいです。
ろーるちゃんの書く甘が読めて、しかもそれを頂けて机バンバンするぐらい嬉しいです!

相互ありがとうございました!

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -