▼ 我はいずこ

最近、ジャーファルさんの機嫌がいささか悪い。いや違うな。悪いというか、なんか逃げられる。
それも俺に対してだけ。何か気に障るようなことをしたかと悩んでみたが、正直心当たりがない。
そんなわけで、シンドバッドさんに当たることにした。


「え、ちょっと!?どうして急に殴りかかってくるの!?」
「何も言うな。俺のサンドバックになれや」
「一体なんだと言うんだ!ジャーファルくーん!エニシが酷いことをしてくっ!」


急いでシンドバッドさんの口を塞ぐも、数メートル離れた場所にいるジャーファルさんには当然聞こえるわけで、呆れた表情でこちらに歩いてきた。
まずいまずいまずい。これ以上ジャーファルさんの中の俺の株が下がったら逃げられるどころか、姿を現してくれなくなるんじゃないか!?
本当に嫌な事をしてくれたなシンドバッドさんよぉ!
ここはなんとしてでも乗り切らねば……!


「ジャーファルさん、これはちがっ「シン、一人で何やってるんですか。早く今日の分の仕事を終わらせて下さい」……」


くらりと眩暈がした。
今、ジャーファルさんなんていった?え、一人で?なわけないよね?俺ここにいるもんね?
驚いた顔でシンドバッドさんを見てみると、俺と同じような顔をしていた。


「じゃ、ジャーファル?俺、一人じゃないよね?」
「何言ってるんですか?全くそんな馬鹿な事言ってないで、早く執務室に行きますよ」
「あ、ああ…」




ところ変わって夜のシンドバッドさんの部屋にお邪魔させていただいてるエニシです。
ただいまシンドバッドさんと会議中。


「今日一日様子を見たが……おかしい」


そう。あれから気付いてほしさ一心で色々試してみたんだが、何をやっても気付く気配なし。流石に心が折れそうだ。


「どうするエニシ。このままじゃお前、一生想いを告げられんぞ」
「そうだよなぁ…って、なんで知ってんの!?」
「ん?皆知ってるぞ。お前がジャーファルのことが好きなんてこと。……知らなかったのか?」
「あったりまえだ!誰にも言ってねえんだからな!」
「そうだったのか。エニシ、君は実に鈍感だ!」
「うるっせえ!」


ばふんとベッドの上にあったシンドバッドさんの枕を本人の顔にぶつけた。
そう興奮するなはっはっは、なんて言われてる俺の心の中は羞恥心でいっぱいだよ!
顔だけそっぽを向くと、シンドバッドさんが真剣な顔をしだした。


「さて、話を戻そうか。どうしてジャーファルが君に気付かないのか。心当たりは?」
「あったらそれをどうにかして気付いてもらってるってーの」
「それもそうだ。では、何故……」


その時、ドアのノック音が部屋に鳴り響いた。


「シン、いますか?ジャーファルです」
「……ああ、今開ける」


おい!と小声で止めたが、見ていろと反対に俺が止められた。
一応気付かれはしないと思うがドアから死角になる場所に身をひそめる。声は聞こえる範囲だ。


「明日の予定なんですが……」
「ジャーファル、少しいいか」
「?はい、構いませんが」
「君は、」


エニシという男を知っているか?


俺は言葉を失った。
部屋は静寂に包まれる。
少しの間を開けて、ジャーファルさんは口を開いた。


「どなたですか?」
「……いや、なんでもない。明日の予定は自分で確認する。ごくろうだったな、もう今日は休め」
「あ、はい。分かりました。ではおやすみなさい」
「ああ、おやすみ」



パタンと扉が閉まると同時に、俺は足元から崩れ落ちた。
目の前が真っ白というのはこのことか。



−−−−−−
続きます。
20130604

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