▼ 甘ったるい

現パロ

ピンポーン

チャイムの音で目を覚ます。
やっと帰ってきたのかとのそりと体をソファから起き上がらせ、覚醒しきれていない頭で玄関に向かう。
少しおぼつかない足取りでつっかけを履き、扉を開ける。


「……おかえり」
「たっだいまー!寂しかっただろぉ?泣いてないかぁ?」


姿が見えた途端、酔っ払いに抱きつかれた。
重い、酒臭い、暑苦しい。見事に三拍子が揃った。


「俺はなぁ、ずっとお前が泣いてないか心配で心配で…、いつもより酒が飲めなかった!!」
「しるか!つかそんなに叫ぶな。何時だと思ってんだ」
「ん〜?20時?」
「23時じゃボケェ」


こんな時間に大声出すなんて近所迷惑でしかない。
苦情がくる前にと急いで酔っ払いのシンドバットを中へと引きずり、扉を閉めた。


「とっとと靴脱げ。あと重い」
「も〜、縁ちゃん冷た〜い!もうちょっとさぁ、おかえりダーリンっ、とか言えないのかよぉ〜?」


シンドバットが俺の頬をつっつきながらアホなことを言ってる間に、しょうがないから俺が靴を脱がせ、こちらに全体重をかけて足の力が入ってない酔っ払いの背中に腕を回しずるずるとリビングに連れていく。
いつまでも玄関じゃこっちが寒い。


「ったく、こんなふらふらになるまで飲むなよなぁ…。どうやって帰ってきたんだか……」


そんなことをごちる。もちろん未だにアホなことを言っている本人から返事は返ってこない。

そんなに長い距離なわけではないのに遠く感じたリビングにやっと着いた。
方向転換してシンドバットと俺の立ち位置を逆にする。シンドバットの後ろには俺がさっきまで寝ていたソファがある。
そのソファに向かって、目の前にある頼りがいのありそうな胸元を、かなり力をこめて押す。


「どーん」


大人が、しかも180センチ超えの男がそれはもう盛大に背中から倒れたって軋み一つしないソファは流石といえる。バカじゃないのかと白い目で見るぐらい高かったのだ。
そんなソファを軽々と買うこいつの神経を疑う。


「いた…くはないけど押すなんてひーどーい!」
「こうでもしなきゃ、お前離れないだろ」
「そりゃーね、縁のこと閉じ込めちゃいたいぐらい好きだからな」


酔っ払いはすごいな。いつにもまして言うことが残念だ。
つーか、閉じ込められるのはごめんだ。
俺は相手にしてられないと一つ溜息を吐きだすと、洗い物をするのを忘れていたのを思い出した。これで相手をしなくて済むと足をキッチンに向かわせる。

カチャリと食器が軽くぶつかり合う音が静かなリビングに響く。
妙に静かだなと、ちらっと視線を食器からソファにやると、シンドバットが背もたれに腕をかけこちらをジッと見ていた。


「……何だよ」
「いやー、こうしてると本当に夫婦みたいだなぁと…」
「寝言は寝て言え」
「やーん!縁ちゃんきびしー!」


アルコールのせいでバカみたいに笑うシンドバットを放っておいて、最後の一枚を洗い終える。
やっと終わったと息を吐く。するとそれを聞いたシンドバットが終わったのを察知したのか縁縁と手招きをした。
ろくでもないことだと思うが、行かなかったら不機嫌になるのは目に見えている。
急ぎはせずにシンドバットの側に行く。


「次はなんだ?」
「おいで!」


ほら、と満面の笑みで両腕を広げる。
いきなりの言動にぽかんとするのは仕方ないことだ。
何がどうしてそういう発想になったんだ…。


「シンドバット、一応聞くがそれは抱き締めさせろ、ということか?」
「ああ!さあこい!」


飛びつくわけじゃねえんだから。少し苦笑いをしてからゆっくりを腕を伸ばし、そっと抱き着いた。
お酒のせいか、いつもより高い体温が服越しに伝わってくる。
とくん、とくん、と心臓の鼓動が心地いい。


「急にどうしたんだよ、いつもなら勝手に抱き着いてくるくせに」
「んー、大事な大事な奥さんを労わってあげようと思ってな…。いつも頑張ってくれてるからなぁ」
「それはお前もじゃねえか。毎日毎日会議やら書類やらで、その上俺の相手までして……」
「はははっ、なんでお前の相手するのに疲れるんだ。むしろ癒されてるよ。ありがとう」
「それはこっちのセリフだ。……いつもありがとな、シンドバット」


改めてありがとうなんて言うのがこっぱずかしくて、ふふっと笑いあった。
膝に座る俺の体はすっぽりとシンドバットに包み込まれている。
そのままふと上を向くとシンドバットと目が合い、自然と顔が近くなる。


「縁……」
「シン…ん、ぅ……ッ」


唇が重なる。何度もしているが未だ慣れない。
ふわりと香るアルコールが、鼻をくすぐる。
腕をシンドバットの首に回し、さっきよりももっと深いキスをする。
何度も角度を変え、舌を絡めるが飽き足らず、もっと、もっとと互いが求める。酸素不足になるが、それでもやめない。やめたくない。


「…っ縁、おしまいだ」
「なんで……ッ」
「これ以上すると、止まらなくなる……」
「………いいよ」
「いや、悪いが今日はなしだ」
「はぁ…、分かった。いつまでだ?」
「再来週の火曜には戻ってくるつもりだ」


キスだけで止められる日は、必ず次の日に出張がある。途中で止めるのは帰ってきたときのお楽しみだとか前に言ってた。
今日甘えてきたのは、ただこれを伝える為だけなのかもしれない。変な口実作りやがって…。


「言っておくが、労わる為と言ったのは本音だからな」
「!、はいはい、そうしときますよ。じゃ俺はそろそろ寝るぞ」


膝から下りる。温もりがなくなって少し寂しい気もする。


「ああ、お休み。また再来週」
「浮気すんなよ、ばーか」
「ははっ、しないよ。愛してるよ、縁」


これで今日は最後だというように、軽く頬にキスをされた。

再来週か……、長いな……。
そう思いながら寝室にあるベッドにもぐりこんだ。あとからくるシンドバットが眠る場所を開けて……。



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20121027

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